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[SVC36-03] 新潟焼山火山の急激な成長-最新のマグマ噴火である大谷火砕流堆積物Ⅱの年代から
キーワード:火山発達史、噴火史、精密年代決定、14C年代測定、ウイグル・マッチング、樹木年輪
島弧火山の成長は,数万年スケールで活動期と休止期を繰り返しながら成長することが多いことが知られている(例えば,早津ほか,1991;宇都,1995; Calvert et al., 2018).また,万年オーダの活動期内においても,千~百年オーダで火山活動が急激に活発化することがある.これらの火山活動の消長の原因は,火山の発生と成長に関する基礎的かつ根源的な問題を含んでいるがその原因については,未だ十分に明らかになっていない.長期にかつ時間分解能の高い火山活動史が編まれている火山は世界的にも少ないため,それらの原因究明には,高い時間分解能を持った火山層序の構築が今後も必要であろう.近年,加速器による14C年代測定が普及し,少量の試料からでも高精度な年代測定が行えるようになったことや,測定値を暦年に変換するための暦年較正曲線(IntCal)の整備や解析ツールの開発も進み(例えば,中村,2007),火山噴出物から高精度な年代値が得られるようになってきた.しかし単一の14C年代測定では,100年の分解能で年代決定をすることは難しい.それを解消するため,樹木年輪などの年代間隔が明確な試料に対して,複数の年代測定を行い,それらの年代値を暦年較正曲線の変動パターンと照らし合わせて年代を確定する,ウイグル・マッチングという手法が開発されている(例えば,中村,2007).ただし,この手法は,100年間程度の年代幅を持ったデータセットがないと確度よく年代が求められないことが指摘されてきた.しかしながら最近,較正曲線の限界をふまえながら慎重な検討をおこなえば30年以下の年輪数でも妥当な年代値が得られる場合があることが明らかになりつつある(Okuno et al., 2019;小林・坂本,2021).本研究は新潟焼山火山噴出物中の少数年輪試料に対して,ウイグル・マッチングを行い確度の高い年代値を得た結果,新潟焼山火山の急成長が明らかになったので,ここに報告する.
新潟焼山火山は,早津(2008)により詳しい層序が編まれており,13世紀(早川ほか,2011)に本火山最大の火砕流である,早川火砕流堆積物を形成する噴火があった後に,現在の山頂部の溶岩ドームを含めて,山体の大部分が形成された.最新のマグマ噴火は,大谷火砕流堆積物Ⅱを形成した活動である.早津(2008)は,この最新の火砕流堆積物を1773(安永二)年の噴火記録に対応させた.しかし,その後の18世紀中の別の年にも噴火があり,その時の噴火のほうが大きかったとの記録も残されている.今回,この大谷火砕流堆積物Ⅱの中に含まれる直径数cmの広葉樹の炭化木2つについて14C年代測定を行った.いずれも全体が樹枝状の形態を残しており樹皮も確認できたため,火砕流に巻き込まれることで焼死した樹木であると判断した.年代測定は,両炭化木の最外年輪1年分の2試料、最外年輪より9年輪内側の年輪部分の1試料を測定試料とした.暦年較正や解析にはOxcal 4(Ramsey, 2009)とIntCal20(Reimer et al. , 2020)を使用した.測定の結果、最外年輪の2試料は、それぞれ1437-1503(88.4%),1597-1616(7.1%) cal AD,1443-1497(78.2%),1590-1620(17.2%) cal AD, またそれより9年輪内側の1試料については1432-1496(92.9%),1601-1610(2.5%) cal ADの値となった.これらのデータからOxcal 4とIntCal20を用いD_Sequence関数を使用してウイグル・マッチングを行った結果,最外年輪形成の年代は1444-1474 cal ADとなる.また,2つの炭化木が同時に焼死したと仮定してCombine関数を用いて最外年輪形成の年代を計算すると1444-1490 cal ADとなる. このように別々の方法で求めた最外年輪の年代が非常によく一致することから,炭化木は15世紀後半に噴火により焼死した可能性が非常に高い.すなわち大谷火砕流堆積物Ⅱの噴火年代は,18世紀ではなく,15世紀後半と結論づけられる. 最後のマグマ噴火が15世紀後半であることから,新潟焼山火山は早川火砕流堆積物の形成年代である13世紀からおよそ300年以内に,約3㎞3ものマグマを出す激しい噴火活動を行い,現在確認できる山体のほんとんどの部分をつくったと考えられる.また,最近500年間は水蒸気噴火を主とし,マグマを出すような比較的規模の大きな噴火は行っていなかったようである.
文献:Calvert et al.(2018) Geosphere. 早川ほか(2011)地学雑誌. 早津(2008)妙高火山群.早津ほか(1991)地学雑誌.小林・坂本(2021)樹木年輪と木材研究.中村(2007)第四紀研究. Okuno et al. (2019) Quaternary International. Ramsey (2009) Radiocarbon. Reimer et al. (2020) Radiocarbon. 宇都(1995)火山特別号.
新潟焼山火山は,早津(2008)により詳しい層序が編まれており,13世紀(早川ほか,2011)に本火山最大の火砕流である,早川火砕流堆積物を形成する噴火があった後に,現在の山頂部の溶岩ドームを含めて,山体の大部分が形成された.最新のマグマ噴火は,大谷火砕流堆積物Ⅱを形成した活動である.早津(2008)は,この最新の火砕流堆積物を1773(安永二)年の噴火記録に対応させた.しかし,その後の18世紀中の別の年にも噴火があり,その時の噴火のほうが大きかったとの記録も残されている.今回,この大谷火砕流堆積物Ⅱの中に含まれる直径数cmの広葉樹の炭化木2つについて14C年代測定を行った.いずれも全体が樹枝状の形態を残しており樹皮も確認できたため,火砕流に巻き込まれることで焼死した樹木であると判断した.年代測定は,両炭化木の最外年輪1年分の2試料、最外年輪より9年輪内側の年輪部分の1試料を測定試料とした.暦年較正や解析にはOxcal 4(Ramsey, 2009)とIntCal20(Reimer et al. , 2020)を使用した.測定の結果、最外年輪の2試料は、それぞれ1437-1503(88.4%),1597-1616(7.1%) cal AD,1443-1497(78.2%),1590-1620(17.2%) cal AD, またそれより9年輪内側の1試料については1432-1496(92.9%),1601-1610(2.5%) cal ADの値となった.これらのデータからOxcal 4とIntCal20を用いD_Sequence関数を使用してウイグル・マッチングを行った結果,最外年輪形成の年代は1444-1474 cal ADとなる.また,2つの炭化木が同時に焼死したと仮定してCombine関数を用いて最外年輪形成の年代を計算すると1444-1490 cal ADとなる. このように別々の方法で求めた最外年輪の年代が非常によく一致することから,炭化木は15世紀後半に噴火により焼死した可能性が非常に高い.すなわち大谷火砕流堆積物Ⅱの噴火年代は,18世紀ではなく,15世紀後半と結論づけられる. 最後のマグマ噴火が15世紀後半であることから,新潟焼山火山は早川火砕流堆積物の形成年代である13世紀からおよそ300年以内に,約3㎞3ものマグマを出す激しい噴火活動を行い,現在確認できる山体のほんとんどの部分をつくったと考えられる.また,最近500年間は水蒸気噴火を主とし,マグマを出すような比較的規模の大きな噴火は行っていなかったようである.
文献:Calvert et al.(2018) Geosphere. 早川ほか(2011)地学雑誌. 早津(2008)妙高火山群.早津ほか(1991)地学雑誌.小林・坂本(2021)樹木年輪と木材研究.中村(2007)第四紀研究. Okuno et al. (2019) Quaternary International. Ramsey (2009) Radiocarbon. Reimer et al. (2020) Radiocarbon. 宇都(1995)火山特別号.