日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC36] 火山・火成活動および長期予測

2023年5月21日(日) 10:45 〜 12:00 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、上澤 真平(電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 地質・地下環境研究部門)、及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、清杉 孝司(神戸大学海洋底探査センター)、座長:上澤 真平(電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 地質・地下環境研究部門)、清杉 孝司(神戸大学海洋底探査センター)

11:30 〜 11:45

[SVC36-09] 馬伏川岩屑なだれ堆積物から探る星山期以前の富士山山体とマグマ活動

*西澤 達治1吉本 充宏1亀谷 伸子1 (1.山梨県富士山科学研究所富士山火山防災研究センター)

キーワード:富士山、岩屑なだれ堆積物、溶岩礫、マグマ

富士山は伊豆弧の北端付近に位置し、玄武岩質マグマを主体とする日本最大の活火山である。約10万年前に活動を開始し、同じ頃に活動を終えた小御岳火山の南側を覆うように山体を形成した。体積約400 km3、標高3,776 mの現在の山体は、過去に数回の山体崩壊と、非爆発的噴火に伴う玄武岩質溶岩流の流出及び爆発的噴火に伴うスコリアや火山灰の噴出を数百回以上繰り返すことで形成された。富士山の活動史は主に噴火様式の違いに基づき、星山期(10万年前~1万7千年前)、富士宮期(1万7千年前~8千年前)、須走期(8千年前以降)の3つに大きく分けられ、更に須走期(Sb)はSb-a期(8千年前~5千6百年前)、Sb-b期(5千6百年前~3千5百年前)、Sb-c期(3千5百年~2千3百年前)、Sb-d期(2千3百年前以降)に区分されている(高田ほか,2016)。新富士と呼ばれる富士宮期以降の火山噴出物はその多くが地表に露出しており、地質調査に基づきその噴火履歴が解明されつつある。2021年3月に改定された富士山ハザードマップはSb-b期以降の詳細な噴火履歴に基づき作成されている。一方、古富士と呼ばれる星山期以前のマグマ活動や噴火履歴の解読は十分に行われていない。その主な要因は、古富士の山体及び噴出物の大半が新富士によって覆われており、地表にはほとんど露出していないことが挙げられる。
富士山山頂から東に約20 km離れた地点において、道路工事に伴い削剥された斜面に大露頭が出現した。露頭面はコの字をしており北西、北東、南東の3面から成り、高さ約10 m、長さ200 m以上ある。露頭の最上部は1707年宝永噴火に伴う降下軽石及びスコリア層が見られ、その下位には須走期以前に降り積もったスコリアや火山灰の層が数十枚以上堆積している。これらのテフラ層は、顕著な活動低下期を示唆する厚さ1m程の富士黒土層を境に須走期と富士宮期に分けられる。更に、露頭の下部(地表からの深度約7~8m)には層厚1~3 mの岩屑なだれ堆積物が露出し、その境界面は東方向に緩やかに傾斜している。同堆積物は塊状無層理で長径数cm~十数cmの亜角礫~角礫状の溶岩礫を多数含み、一部は赤色酸化した構造も見られる。また北西側の面の一部には幅~30 cm、長さ~1 mの空洞がランダムな方向に数個みられ、その内部には木片や葉の一部が残っており、これらは岩屑なだれに巻き込まれて倒れた木々の痕跡と思われる。本堆積物は、その層序及び分布域から馬伏川岩屑なだれ堆積物に対比される。我々は同層の起源を探るため、含まれている溶岩礫と空洞中の木片・葉の試料を採取した。
空洞に含まれていた葉について、放射性炭素年代測定を行ったところ18,931–18,764calBP(2σ暦年代範囲)を得た。これは富士山の南西麓に分布する田貫湖岩屑なだれ堆積物の堆積年代と同時期であることから、星山期の終盤に古富士山体の南西~南東麓において複数回の崩壊が起きた可能性が高い。また、中に含まれる溶岩礫は古富士の山体を形成していた溶岩流に由来することが判明した。採取した約50個の溶岩礫は重量0.2~5.2 kg、長径6~23 cmであり、その大半が新鮮な玄武岩質の溶岩礫であるが、赤色酸化したものも含まれる。溶岩礫の薄片観察及び岩石記載を行ったところ、岩石組織、鉱物組み合わせ、斑晶の長径や含有量などは礫ごとに異なり、それらが複数枚の異なる溶岩流に由来することが判明した。一方、斑晶として斜長石、カンラン石、単斜輝石を含む礫が多く、特に斜長石斑晶は正累帯構造を示す斑晶と汚濁帯を持つ斑晶が混在しており、マグマ混合を示唆する。この様な特徴は新富士の噴出物でも多数報告されており、深部に由来する多量の玄武岩質マグマと浅部に存在する少量のより珪長質なマグマの普遍的な混合が、星山期においても起きていた可能性がある。