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[SVC36-P03] 蔵王火山最新期溶岩類の岩石学的特徴
キーワード:蔵王、安山岩質溶岩、マグマ混合、時間変化
蔵王火山は東北日本弧火山フロントの中央部に位置する第四紀成層火山である.蔵王火山の活動期は6つに分けられ,そのうち3万5千年前から現在も継続している活動が最新の活動期Ⅵである.最新期の噴出物は火砕岩と溶岩から構成される.
これまで最新期の噴出物の研究は,広く分布し種類も多い火砕岩類を中心に行われており,局所的に分布している溶岩類に関しては研究があまり進展していない.しかし,最新期のマグマ活動の全容を理解する上では溶岩類についても検討する必要がある.本研究ではそれらの記載岩石学的な特徴と全岩化学組成を調べたのでその結果を報告する.
層序
先行研究によれば最新期溶岩類は,約3.5万年前の濁川溶岩(Ngl),約3~1万年前と推測される五色岳東方溶岩(Gel),刈田岳北方溶岩(Knl),約1万年前以降の振子滝溶岩(Fkl),五色岳南方溶岩(Gsl)に区分される.本研究ではGelの下位に産出する新たな溶岩を認定した.濁川上流溶岩(Nul)と呼称する.
記載岩石学的特徴
溶岩は灰色から暗灰色で,斑晶量は27-37vol. %の玄武岩質安山岩~安山岩である.NglとNulはカンラン石含有単斜輝石直方輝石玄武岩質安山岩,Knlはカンラン石含有直方輝石単斜輝石玄武岩質安山岩,Gelは単斜輝石直方輝石玄武岩質安山岩,FklとGslはカンラン石含有単斜輝石直方輝石安山岩である.Fkl,Gslではパッチ状組織,NulとGelではパッチ状組織に加え汚濁帯を持つ斜長石斑晶が多く,Ngl,Knlにはパッチ状組織や汚濁帯を持つ斜長石斑晶は少ないという特徴が認められた.Nul,Gel,Fklでは直方輝石斑晶に単斜輝石反応縁が見られたが,Ngl,Knl,Gslには見られなかった.カンラン石斑晶の直方輝石反応縁は特にNglとFklで顕著であった.
全岩化学組成
最新期溶岩類のSiO2量は54-58.5wt. %程度で,中間カリウム・カルクアルカリ系列に属する.全体としてはSiO2量が増加するに従ってTiO2,Na2O,K2O,Ba,Rb,Y,Zr量は増加し,FeOt,MnO,CaO,Sr量は減少する.また,噴出した時期ごとに溶岩の組成変化の特徴が異なる.SiO2量は,約3.5万年前及び約3~1万年前のユニットは54-57wt. %であるのに対し,約1万年前以降のFkl,Gslは57-58.5wt. %と高い値を示す.K2O,Zr-SiO2図等において,約3.5万年前のNglの方が約3~1万年前のNul,Gel,Knlよりも高いトレンドを描く.詳しく見るとNul,KnlはGelよりも高いトレンドを示す.これらのトレンドは低SiO2量の低い側で収束し,高い側で発散している.約1万年前以降のFkl,GslはNul,Knlのトレンドの高SiO2量側延長上に概ね乗る.しかしFeOt,TiO2-SiO2図等において,Fkl,Gslのトレンドは他のユニットのトレンドと斜交する.
考察
全てのユニットで斜長石斑晶の汚濁帯やパッチ状組織などの溶融組織が認められることから,最新期溶岩類は全て混合岩であると考えられる.なお,直方輝石斑晶の単斜輝石反応縁,カンラン石斑晶の直方輝石反応縁の有無と程度は,各ユニットで異なっている.
約3.5万年前のNglは,約3~1万年前のNul,Gel,Knlと比較してK2O,Zr-SiO2図等におけるトレンドが特に高SiO2側で異なることから,混合に関与した珪長質側端成分の組成が異なっていたと考えられる.さらに,詳しく見るとNul,KnlとGelのトレンドが高SiO2側で異なることから,同じ約3~1万年前に噴出した溶岩であっても珪長質側端成分の組成がやや異なっていたと考えられる.また,FeOt,TiO2-SiO2図等において約1万年前以降のFkl,Gslのトレンドは他のユニットのトレンドと斜交することから,Fkl, Gslに関与したマグマの組成はそれ以前のユニットのものと異なっていた可能性が考えられる.このように噴出時期によって関与したマグマの組成あるいは関与したマグマの混合比が変化したと推定される.
これまで最新期の噴出物の研究は,広く分布し種類も多い火砕岩類を中心に行われており,局所的に分布している溶岩類に関しては研究があまり進展していない.しかし,最新期のマグマ活動の全容を理解する上では溶岩類についても検討する必要がある.本研究ではそれらの記載岩石学的な特徴と全岩化学組成を調べたのでその結果を報告する.
層序
先行研究によれば最新期溶岩類は,約3.5万年前の濁川溶岩(Ngl),約3~1万年前と推測される五色岳東方溶岩(Gel),刈田岳北方溶岩(Knl),約1万年前以降の振子滝溶岩(Fkl),五色岳南方溶岩(Gsl)に区分される.本研究ではGelの下位に産出する新たな溶岩を認定した.濁川上流溶岩(Nul)と呼称する.
記載岩石学的特徴
溶岩は灰色から暗灰色で,斑晶量は27-37vol. %の玄武岩質安山岩~安山岩である.NglとNulはカンラン石含有単斜輝石直方輝石玄武岩質安山岩,Knlはカンラン石含有直方輝石単斜輝石玄武岩質安山岩,Gelは単斜輝石直方輝石玄武岩質安山岩,FklとGslはカンラン石含有単斜輝石直方輝石安山岩である.Fkl,Gslではパッチ状組織,NulとGelではパッチ状組織に加え汚濁帯を持つ斜長石斑晶が多く,Ngl,Knlにはパッチ状組織や汚濁帯を持つ斜長石斑晶は少ないという特徴が認められた.Nul,Gel,Fklでは直方輝石斑晶に単斜輝石反応縁が見られたが,Ngl,Knl,Gslには見られなかった.カンラン石斑晶の直方輝石反応縁は特にNglとFklで顕著であった.
全岩化学組成
最新期溶岩類のSiO2量は54-58.5wt. %程度で,中間カリウム・カルクアルカリ系列に属する.全体としてはSiO2量が増加するに従ってTiO2,Na2O,K2O,Ba,Rb,Y,Zr量は増加し,FeOt,MnO,CaO,Sr量は減少する.また,噴出した時期ごとに溶岩の組成変化の特徴が異なる.SiO2量は,約3.5万年前及び約3~1万年前のユニットは54-57wt. %であるのに対し,約1万年前以降のFkl,Gslは57-58.5wt. %と高い値を示す.K2O,Zr-SiO2図等において,約3.5万年前のNglの方が約3~1万年前のNul,Gel,Knlよりも高いトレンドを描く.詳しく見るとNul,KnlはGelよりも高いトレンドを示す.これらのトレンドは低SiO2量の低い側で収束し,高い側で発散している.約1万年前以降のFkl,GslはNul,Knlのトレンドの高SiO2量側延長上に概ね乗る.しかしFeOt,TiO2-SiO2図等において,Fkl,Gslのトレンドは他のユニットのトレンドと斜交する.
考察
全てのユニットで斜長石斑晶の汚濁帯やパッチ状組織などの溶融組織が認められることから,最新期溶岩類は全て混合岩であると考えられる.なお,直方輝石斑晶の単斜輝石反応縁,カンラン石斑晶の直方輝石反応縁の有無と程度は,各ユニットで異なっている.
約3.5万年前のNglは,約3~1万年前のNul,Gel,Knlと比較してK2O,Zr-SiO2図等におけるトレンドが特に高SiO2側で異なることから,混合に関与した珪長質側端成分の組成が異なっていたと考えられる.さらに,詳しく見るとNul,KnlとGelのトレンドが高SiO2側で異なることから,同じ約3~1万年前に噴出した溶岩であっても珪長質側端成分の組成がやや異なっていたと考えられる.また,FeOt,TiO2-SiO2図等において約1万年前以降のFkl,Gslのトレンドは他のユニットのトレンドと斜交することから,Fkl, Gslに関与したマグマの組成はそれ以前のユニットのものと異なっていた可能性が考えられる.このように噴出時期によって関与したマグマの組成あるいは関与したマグマの混合比が変化したと推定される.