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[SVC36-P08] 角閃石斑晶の微量元素から推定する東伊豆単成火山群カワゴ平火山の流紋岩マグマの成因
キーワード:流紋岩マグマ、結晶分化、単成火山、伊豆弧
始めに
伊豆半島北西部に位置するカワゴ平火山は、約3100年前に噴火した単成火山である (Tani et al., 2013)。カワゴ平火山の大きな特徴として、玄武岩質から安山岩質のマグマが卓越する東伊豆単成火山群において、初めて流紋岩質のマグマを噴出したことが挙げられる。本研究では、角閃石斑晶の微量元素組成に着目し、カワゴ平火山の流紋岩質のマグマをもたらした地球化学プロセスをより詳細に議論する。
分析・結果
カワゴ平火山の流紋岩は、斑晶として、斜長石、直方輝石、鉄チタン酸化物、角閃石を含む。特に角閃石は、様々な微量元素を分配し得るため、ホストメルトの情報を豊富に持つ。海洋研究開発機構のレーザーアブレーション ICP-MSを用いて、カワゴ平火山の流紋岩に含まれる角閃石の主要及び微量元素組成を分析した。角閃石は、微量元素において広い組成幅を示した。例えば重希土類元素であるルテチウム (Lu) 濃度で比較した場合、組成幅は0.47 ppmから2.64 ppmとなる。また、主要・微量元素ともに、バイモーダル分布等ではなく、連続的な組成変化を示す。スパイダーグラムを用いて比較した結果、希土類元素 (REE) は濃度にかかわらず平行なパターンを示した一方、REE濃度の上昇に伴って顕著にストロンチウム (Sr) およびユウロピウム (Eu) の異常が見られることが特徴となった。
多変量解析である主成分分析 (e.g., Ueki and Iwamori, 2017) を用いて解析を行った結果、カワゴ平火山の角閃石斑晶の微量元素組成は2つのプロセスで説明できることが分かった。一つ目の主成分は、REEとSrのみが関与しており、それらが逆相関を示す、すなわち、REEが濃集するとともにSrが除去されるプロセスを示した。2つめの主成分にはLILE (large-ion lithophile elements) および一部のHFSE (high field strength elements) が関与しており、これらがREEおよびSrと独立に濃集するプロセスが存在することを示している。
考察
諏訪・他(2018)は、カワゴ平火山の角閃石斑晶の主要元素組成をもとに、角閃石斑晶をもたらしたホストメルトのSiO2含有量を推定した。その結果、すべて流紋岩質のマグマに斑晶として含まれるにもかかわらず、角閃石を結晶化させたホストメルトの組成は、安山岩質から流紋岩質までの一連の幅広い組成を示すことが分かった。このホストメルトのSiO2量と本研究で得られた角閃石の微量元素含有量を比較した結果、上記のREE濃集・Sr枯渇のプロセスは、ホストメルトのSiO2含有量と相関を持つことが分かった。すなわち、角閃石を結晶化させたメルトは、SiO2の増加に伴ってREE濃度が増加するとともにSr濃度が減少する。また、ホストメルトのSiO2はEu異常とも相関を示した。
スパイダーグラムのREEパターンに変化が見られないことや、多変量解析がREEすべてが同一に挙動していることを示していることは、角閃石のホストメルトの組成バリエーションに対するマグマ混合や部分溶融の可能性を否定する。一方、SiO2およびREE濃度上昇に伴ってSrおよびEuの負の異常が強くなることは、斜長石の分化を強く示唆する。検証のため、メルトと角閃石間の分配係数を用いて計算したホストメルトの微量元素組成を用いて、結晶分化のマスバランス計算を行った。その結果、安山岩から流紋岩に至るホストメルトのSrおよびEuの異常とREE濃度の増加は整合的に斜長石の分化で再現された。さらに、主要元素のマスバランスと諏訪・他(2018)による岩石学的解析から、少量の直方輝石・鉄チタン酸化物・角閃石の分化の関与も示唆される。また、安山岩側のホストメルトの微量元素比は、東伊豆単成火山群として噴出した安山岩マグマ(Arakawa et al., 2022) と重なる組成幅を示す。
まとめ
本研究によって、カワゴ平火山で噴出する東伊豆単成火山群では希な流紋岩質マグマは、安山岩質マグマからの斜長石を主体とする結晶分化で生じたことが示唆された。一方、本研究での解析により、LILE・HFSEがREE・Srとは独立に挙動していることが示唆されていることから、結晶分化とは独立にマグマ混合などが寄与している可能性が考えられる。実際に、先行研究による解析(鈴木・2000, Arakawa et al., 2022)から、東伊豆での珪長質マグマの生成にはマグマ混合の関与も示唆されている。本発表では、これらの結果を総合することで、カワゴ平火山の流紋岩をもたらした単成火山のマグマ供給系を詳細に議論する。
伊豆半島北西部に位置するカワゴ平火山は、約3100年前に噴火した単成火山である (Tani et al., 2013)。カワゴ平火山の大きな特徴として、玄武岩質から安山岩質のマグマが卓越する東伊豆単成火山群において、初めて流紋岩質のマグマを噴出したことが挙げられる。本研究では、角閃石斑晶の微量元素組成に着目し、カワゴ平火山の流紋岩質のマグマをもたらした地球化学プロセスをより詳細に議論する。
分析・結果
カワゴ平火山の流紋岩は、斑晶として、斜長石、直方輝石、鉄チタン酸化物、角閃石を含む。特に角閃石は、様々な微量元素を分配し得るため、ホストメルトの情報を豊富に持つ。海洋研究開発機構のレーザーアブレーション ICP-MSを用いて、カワゴ平火山の流紋岩に含まれる角閃石の主要及び微量元素組成を分析した。角閃石は、微量元素において広い組成幅を示した。例えば重希土類元素であるルテチウム (Lu) 濃度で比較した場合、組成幅は0.47 ppmから2.64 ppmとなる。また、主要・微量元素ともに、バイモーダル分布等ではなく、連続的な組成変化を示す。スパイダーグラムを用いて比較した結果、希土類元素 (REE) は濃度にかかわらず平行なパターンを示した一方、REE濃度の上昇に伴って顕著にストロンチウム (Sr) およびユウロピウム (Eu) の異常が見られることが特徴となった。
多変量解析である主成分分析 (e.g., Ueki and Iwamori, 2017) を用いて解析を行った結果、カワゴ平火山の角閃石斑晶の微量元素組成は2つのプロセスで説明できることが分かった。一つ目の主成分は、REEとSrのみが関与しており、それらが逆相関を示す、すなわち、REEが濃集するとともにSrが除去されるプロセスを示した。2つめの主成分にはLILE (large-ion lithophile elements) および一部のHFSE (high field strength elements) が関与しており、これらがREEおよびSrと独立に濃集するプロセスが存在することを示している。
考察
諏訪・他(2018)は、カワゴ平火山の角閃石斑晶の主要元素組成をもとに、角閃石斑晶をもたらしたホストメルトのSiO2含有量を推定した。その結果、すべて流紋岩質のマグマに斑晶として含まれるにもかかわらず、角閃石を結晶化させたホストメルトの組成は、安山岩質から流紋岩質までの一連の幅広い組成を示すことが分かった。このホストメルトのSiO2量と本研究で得られた角閃石の微量元素含有量を比較した結果、上記のREE濃集・Sr枯渇のプロセスは、ホストメルトのSiO2含有量と相関を持つことが分かった。すなわち、角閃石を結晶化させたメルトは、SiO2の増加に伴ってREE濃度が増加するとともにSr濃度が減少する。また、ホストメルトのSiO2はEu異常とも相関を示した。
スパイダーグラムのREEパターンに変化が見られないことや、多変量解析がREEすべてが同一に挙動していることを示していることは、角閃石のホストメルトの組成バリエーションに対するマグマ混合や部分溶融の可能性を否定する。一方、SiO2およびREE濃度上昇に伴ってSrおよびEuの負の異常が強くなることは、斜長石の分化を強く示唆する。検証のため、メルトと角閃石間の分配係数を用いて計算したホストメルトの微量元素組成を用いて、結晶分化のマスバランス計算を行った。その結果、安山岩から流紋岩に至るホストメルトのSrおよびEuの異常とREE濃度の増加は整合的に斜長石の分化で再現された。さらに、主要元素のマスバランスと諏訪・他(2018)による岩石学的解析から、少量の直方輝石・鉄チタン酸化物・角閃石の分化の関与も示唆される。また、安山岩側のホストメルトの微量元素比は、東伊豆単成火山群として噴出した安山岩マグマ(Arakawa et al., 2022) と重なる組成幅を示す。
まとめ
本研究によって、カワゴ平火山で噴出する東伊豆単成火山群では希な流紋岩質マグマは、安山岩質マグマからの斜長石を主体とする結晶分化で生じたことが示唆された。一方、本研究での解析により、LILE・HFSEがREE・Srとは独立に挙動していることが示唆されていることから、結晶分化とは独立にマグマ混合などが寄与している可能性が考えられる。実際に、先行研究による解析(鈴木・2000, Arakawa et al., 2022)から、東伊豆での珪長質マグマの生成にはマグマ混合の関与も示唆されている。本発表では、これらの結果を総合することで、カワゴ平火山の流紋岩をもたらした単成火山のマグマ供給系を詳細に議論する。