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[SVC36-P12] 古地磁気測定による鬼界カルデラ,アカホヤ噴火噴出物の定置温度
キーワード:鬼界カルデラ、火砕流、定置温度
鬼界カルデラ火山は薩摩半島の南方約50 kmに位置し、大部分は海底に存在する活火山である。鬼界カルデラ火山では大規模火砕流を伴うカルデラ噴火が繰り返し発生した(小野・他,1982)。最新の約7300年前の鬼界アカホヤ噴火はプリニー式噴火に始まり、船倉降下軽石と船倉火砕流が堆積した。その後、大規模火砕流である幸屋火砕流が発生し、それに伴いアカホヤ火山灰が広域に堆積した(小野・他,1982;Maeno and Taniguchi, 2007)。幸屋火砕流堆積物はカルデラ壁である竹島、薩摩硫黄島で層厚30mと厚く堆積し、40-60 km 海を隔てた薩摩半島、大隅半島、種子島、屋久島、口永良部島にも層厚1m以内で薄く堆積している。幸屋火砕流堆積物は、陸上において、薩摩・大隅半島南部の広範囲に極めて薄く堆積していることから、拡散型火砕流として知られてきた(宇井,1973)。また、神戸大学練習船深江丸による反射法地震探査で、周辺の海底にも幸屋火砕流に対応する噴出物が広範囲に厚く堆積することが明らかになった(清水,in Prep.)しかし、海域で発生した大規模火砕流がどのように海上と海底を流れ堆積したかは、陸上の地質調査に基づき進められてきたが、温度などの定量的な情報を用いた検討はなされていない。本研究の目的は、幸屋火砕流堆積物の定置温度から、海域を渡る際の冷却過程を推定し、その流動・堆積様式を検討することである。本発表では、火砕流が海を渡る前の初期状態となる、カルデラ壁に位置する薩摩硫黄島と竹島での定置温度の推定を試みた。試料は薩摩硫黄島で幸屋火砕流堆積物の最下部に含まれるラグブレッチャを2地点(カルデラ壁北部と西部)でそれぞれ10試料、火砕流堆積物最下部の火山灰を1地点で5試料、竹島では火砕流堆積物の厚さの中間程度の位置に含まれる軽石(3試料)とスコリア(3試料)と外来岩片(1試料)を併せて1地点で7試料定方位採取した。また、薩摩硫黄島では鬼界アカホヤ噴火で幸屋火砕流に先駆けて発生した、船倉降下軽石堆積物中の軽石と船倉火砕流堆積物の溶結部もそれぞれ10試料と6試料採取した。それぞれの試料を段階熱消磁実験を施し、主成分解析を行った。薩摩硫黄島の幸屋火砕流堆積物の最下部のラグブレッチャと火山灰の残留磁化のほとんどは200℃前後から始まり590または640℃までの安定した磁化を持ち、その方向が当時の地球磁場方向に揃うことから590または640℃以上で定置したと推定される。一方、竹島の幸屋火砕流堆積物中の軽石とスコリアと外来岩片は、安定した磁化成分が認められず、高温で定置した証拠は得られなかった。また、薩摩硫黄島で採取した船倉降下軽石と火砕流堆積物の残留磁化はそれぞれ300℃から590℃と500℃から640℃までの安定した磁化を持ち、磁化方向が当時の地球磁場方向に揃うことからそれぞれ590℃と640℃以上で定置したと推定される。薩摩硫黄島の船倉火砕流の平均磁化方向と幸屋火砕流堆積物の下部のラグブレッチャの平均磁化方向は差異が認められるため、ラグブレッチャは堆積後に下位の船倉火砕流により加熱された可能性は低く、火道や火砕流の流動中に本質物質により590℃以上の高温に加熱され、堆積したと推定される。今後は海域を通過後の火砕流の定置温度を推定し、海域で発生した火砕流の流動・堆積様式を検討する予定である。