日本地球惑星科学連合2023年大会

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[E] オンラインポスター発表

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[U-03] Advanced understanding of Quaternary and Anthropocene hydroclimate changes in East Asia

2023年5月26日(金) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (1) (オンラインポスター)

コンビーナ:Li Lo(Department of Geosciences, National Taiwan University)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 )、窪田 薫(海洋研究開発機構海域地震火山部門)、Chuan-Chou Shen(National Taiwan University)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/25 17:15-18:45)

15:30 〜 17:00

[U03-P06] 大槌湾で採取したアワビ貝殻と海水中の溶存無機炭素の放射性炭素濃度の比較

*黄 子涵1,2横山 祐典3,2,1太田 耕輔1,3宮入 陽介3,1、早川 純1平林 頌子1 (1.東京大学大気海洋研究所、2.東京大学総合文化研究科、3.東京大学理学部地球惑星環境学科)


キーワード:アワビ、海水、加速器質量分析装置(AMS)、大槌湾、水塊混合

三陸の海は親潮と黒潮が複雑に混ざりあっている海域である。さらにエルニーニョ南方振動や太平洋十年規模振動といった全球規模の気候変動などにより、三陸周辺海域にもたらされる水塊は変化すると考えられ、そのことは三陸沖の海洋生態系にも影響を与える可能性がある。しかし、エルニーニョ南方振動のような大気海洋相互作用のダイナミクスで生じる現象が、現在進行中の地球温暖化にどのように対応し、さらに地域的な海洋循環にどのような影響を与えるかは、まだ充分に明らかになっていない。

1950年代から1960年代にかけて行われた核実験により、地球の大気中の放射性炭素濃度(Δ14C)は2倍に増加した。この人為的に生成された放射性炭素「bomb-14C」は、二酸化炭素の大気―海洋ガス交換を通じて海洋表層に拡散し、湧昇や移流などの水塊混合現象の研究に有用なトレーサーとして利用されてきた。Δ14Cを用いた水塊混合復元研究は、低緯度域では造礁サンゴを用いた研究が進められてきているが1, 2、サンゴが生息しない高緯度海域では限られている3, 4。先行研究4では、エゾアワビ貝殻が4年以上の長期的な水塊変動の情報を記録しており、季節スケールでのΔ14C測定も可能であることが示されたが、そこでは貝殻と海水のΔ14Cとの系統的な比較は行われていないという問題があった。

本研究では、東京大学大気海洋研究所のシングルステージ型加速器質量分析計を用いて、エゾアワビ(Haliotis discus hannai)の貝殻のΔ14C値と海水のΔ14C値を測定し、それらの値と変動パターンの比較を行う。アワビの貝殻と海水は、いずれも2022年5月および6月にかけて大槌湾の入り口付近で採取されたものである。大槌湾は北西太平洋に面した三陸海岸に位置する。表層では、日本海からの津軽暖流が、亜寒帯北太平洋からの冷たくΔ14Cが低い親潮と合流し、さらに亜熱帯北太平洋からの暖かくΔ14Cが高い黒潮と合流する複雑な水塊混合が起きている海域である。同じ時期、同じ場所で採取されたアワビ殻と海水のΔ14C値を比較するのは本研究が初めてである。発表では、その結果に基づき、アワビの貝殻試料を用いた水塊混合復元研究の可能性について議論する。

出典:
1. Hirabayashi, S., Yokoyama, Y., Suzuki, A., Miyairi, Y., & Aze, T. (2017). Multidecadal oceanographic changes in the western Pacific detected through high‐resolution bomb‐derived radiocarbon measurements on corals. Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 18(4), 1608-1617.
2. Hirabayashi, S., Yokoyama, Y., Suzuki, A., Miyairi, Y., Aze, T., Siringan, F., & Maeda, Y. (2019). Insight into western pacific circulation from South China sea coral skeletal radiocarbon. Radiocarbon, 61(6), 1923-1937.
3. Kubota, K., Shirai, K., Murakami‐Sugihara, N., Seike, K., Minami, M., Nakamura, T., & Tanabe, K. (2018). Bomb‐14C peak in the North Pacific recorded in long‐lived bivalve shells (Mercenaria stimpsoni). Journal of Geophysical Research: Oceans, 123(4), 2867-2881.
4. Ota, K., Yokoyama, Y., Miyairi, Y., Hayakawa, J., Satoh, N., Fukuda, H., & Tanaka, K. (2021). Northeast Pacific seawater radiocarbon recorded in abalone shells obtained from Otsuchi Bay, Japan. Radiocarbon, 63(4), 1249-1258.