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[U08-04] 欧州火星探査衛星TGO/NOMAD観測データによって得られた火星大気中におけるCO炭素・酸素同位体比
キーワード:同位体、火星、一酸化炭素、TGO、NOMAD、同位体分別
火星大気の炭素同位体比は、火星における大気進化史や表層有機物の起源を制約するための重要なトレーサーとして知られている(Jakosky et al., 1994; House et al., 2021)。大気中の各炭素種の同位体変化は、脱ガスや大気散逸に加え、CO2の光解離時の同位体分別効果の影響も強く受けることが近年の光化学研究から明らかになってきた(Lammer et al., 2020など)。Schmidt et al. (2013)で示された理論計算ではCO2光解離時の吸収断面積が数百‰異なることが示唆され、その結果を元に我々が行なった火星大気光化学計算から、CO炭素同位体比がCO2と比べ著しく枯渇することが示された(Yoshida et al., under review)。このように、火星大気の炭素同位体分別過程を理解するためには、CO2・CO両者の観測が必要だが、従来の火星大気の炭素同位体比の観測研究はCO2に限定されてきた(δ13C=46+/-4 ‰, Webster et al.,2013; δ13C~0 ‰ below 100 km, Alday et al.,2021)。加えて、CO2の光解離時には炭素のみならず酸素も分別することが示唆されていることから(Schmidt et al., 2013)、炭素に加えてCO中の酸素同位体比も光解離の指標となることが期待される。2018年から稼働する欧州火星探査衛星ExoMars Trace Gas Orbiter (TGO) は、高波長分解能を有する複数の赤外分光を用いた太陽掩蔽観測により、火星大気中の同位体比をより詳しく調べることを可能にした。本研究はこの探査衛星TGOに搭載された赤外分光器Nadir and Occultation for MArs Discovery (NOMAD) で得られた太陽掩蔽観測分光スペクトルデータを用いて、火星大気CO中の炭素・酸素ともに同位体比の高度分布の導出を試みた。COの炭素酸素同位体比を同時に導出したのは本研究が初めての試みであり、CO同位体分別過程に制約を与えることも目指す。
解析には、NOMADの観測波長域order185(4157-4190cm-1) ・order186(4180-4213cm-1) のスペクトルを解析した。本研究では、最尤推定法OEM (Rodgers, 2000)で観測データに合う最適な変数を調べる放射伝達・反転解析コード、ASIMUT (Vandaele et al., 2006) を用いて解析を行った。放射伝達計算に用いる火星大気の圧力とCO2体積混合比の初期高度分布は、GEM-Marsによる理論予測値 (Daerden et al., 2019)を用い、温度は同時に取得されたCO2の吸収線から観測的に得られた値(Trompet et al., 2022)を使用した。12C16Oと13C16O、12C18Oの観測視線方向の積算量を変数とし、リトリーバルを各高度で取得されたスペクトルに対して独立に行った。高度30〜50 kmで得られたリトリーバル結果について、3-sigma以上の信頼度がある値のみを選定した。
まず、初期結果として、2022/3/1〜2022/4/8の9軌道について解析を行った。高度30〜50 km 全ての結果を加重平均し、標準偏差を求めると、導出された同位体比は、δ13C=-498±140‰(order185) / -138±88‰(order186)、δ18O=-195±187‰となった。δ13Cの値が、用いた2つの波長域で整合しないのは、仮定した大気温度の不確定性さに起因する誤差のためであると考えられる。それらの比較的大きな誤差を考慮しても、13Cの枯渇は示唆され、Schmidt et al.(2013)やYoshida et al.(under review)の理論予測値で示されたCO2光解離によるCO同位体分布が本高度域でおこっていることを観測的に証明する結果となった。次に我々は解析データ数を増やし、2022/3/1〜2022/12/24の61軌道・高度30〜50 km について同様の計算を行った。導出された同位体比は、δ13C=-457±393‰(order185) / -183±208‰(order186)、δ18O=70±307‰となった。上述の9軌道を用いた解析結果と異なり、同位体比の値にばらつきがみられた。特に、炭素および酸素同位体が高度とともに増加する傾向が確認された。今後これらの変動の要因を詳しく解析する予定である。
解析には、NOMADの観測波長域order185(4157-4190cm-1) ・order186(4180-4213cm-1) のスペクトルを解析した。本研究では、最尤推定法OEM (Rodgers, 2000)で観測データに合う最適な変数を調べる放射伝達・反転解析コード、ASIMUT (Vandaele et al., 2006) を用いて解析を行った。放射伝達計算に用いる火星大気の圧力とCO2体積混合比の初期高度分布は、GEM-Marsによる理論予測値 (Daerden et al., 2019)を用い、温度は同時に取得されたCO2の吸収線から観測的に得られた値(Trompet et al., 2022)を使用した。12C16Oと13C16O、12C18Oの観測視線方向の積算量を変数とし、リトリーバルを各高度で取得されたスペクトルに対して独立に行った。高度30〜50 kmで得られたリトリーバル結果について、3-sigma以上の信頼度がある値のみを選定した。
まず、初期結果として、2022/3/1〜2022/4/8の9軌道について解析を行った。高度30〜50 km 全ての結果を加重平均し、標準偏差を求めると、導出された同位体比は、δ13C=-498±140‰(order185) / -138±88‰(order186)、δ18O=-195±187‰となった。δ13Cの値が、用いた2つの波長域で整合しないのは、仮定した大気温度の不確定性さに起因する誤差のためであると考えられる。それらの比較的大きな誤差を考慮しても、13Cの枯渇は示唆され、Schmidt et al.(2013)やYoshida et al.(under review)の理論予測値で示されたCO2光解離によるCO同位体分布が本高度域でおこっていることを観測的に証明する結果となった。次に我々は解析データ数を増やし、2022/3/1〜2022/12/24の61軌道・高度30〜50 km について同様の計算を行った。導出された同位体比は、δ13C=-457±393‰(order185) / -183±208‰(order186)、δ18O=70±307‰となった。上述の9軌道を用いた解析結果と異なり、同位体比の値にばらつきがみられた。特に、炭素および酸素同位体が高度とともに増加する傾向が確認された。今後これらの変動の要因を詳しく解析する予定である。