日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[U-09] 持続可能な発展のための国際基礎科学年と地球惑星科学の貢献

2023年5月25日(木) 13:45 〜 15:00 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:佐竹 健治(東京大学地震研究所)、田近 英一(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、春山 成子(三重大学名誉教授)、座長:佐竹 健治(東京大学地震研究所)、田近 英一(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、春山 成子(三重大学名誉教授)

14:14 〜 14:37

[U09-02] 持続的発展のための基礎科学の貢献-数学の役割

★招待講演

*小谷 元子1 (1.東北大学)

キーワード:持続的発展、基礎科学、数学

ユネスコと連携した国際的な科学連合や組織の努力により、2022年7月からの1年間が「持続可能な発展のための国際基礎科学年(IYBSSD 2022)」に指定された。
基礎科学は、気候変動、パンデミック、食糧・エネルギー不足、デジタル化が日常生活に及ぼす様々な影響など、地球規模の問題に取り組むために不可欠な手段を提供する。しかし、これらの問題は、基礎科学の一つの分野の貢献だけでは解決できない。基礎科学の多様な分野の専門家間の連携や、また幅広いステークホルダーとの協力が欠かせない。今日、私たちが直面しているグローバルな課題は、基礎科学者や応用科学者だけでなく、バックグラウンドに関係なく、私たち一人ひとりが重要なステークホルダーであることを意味している。
数学はこれまで科学の共通言語として科学技術の発展に貢献すると同時に、数学自身も外からの刺激を受けることで発展してきた。17世紀の科学革命において、現代的な意味での「科学」の定義が行われ、そのなかで自然現象の数理モデル化ということの重要性が改めて認識された。自然科学とは実験や観測により自然界の法則を「証明」することであり、理論を展開する土台となる数学の役割が認識されました。ガリレオ・ガリレイの有名な言葉である「宇宙という書物は数学という言語で書かれている」によく表されている。特に数学と宇宙・物理とはお互いにその発展を支えあってきた。数学の最も価値の高い国際賞とされるフィールズ賞、ガウス賞、チャーン賞、アーベル賞、京都賞などにおいても物理との関連が深く、しかも数学の新たな領域を切り開いた研究に対して授賞されている。ミレニアム問題のうちの「ヤン・ミルズ方程式と質量ギャップ問題」Yang–Mills and Mass Gap)「ナビエ・ストークス方程式の解の存在と滑らかさ」(Navier–Stokes Equation)は物理の課題から発展した数学の問題である。
昨今の情報化・デジタル化のなかで数学の果たす役割は更に拡大してきた。数学のもつ最も特徴的な強みは、具体的な課題を抽象化・一般化し俯瞰することにある。冒頭述べたように、基礎科学が人類社会の課題解決に資するためには、統合的に思考する能力が以前にもまして強く求められている。数学は、課題を抽象化・一般化することで、ライフサイエンス、ナノテクノロジー、環境科学、材料科学、物理学、化学、金融工学、経済科学、社会科学など様々な分野の共通基盤となり分野横断的・分野融合的な研究開発の推進にかかわりたいと考えている。
国際学術会議international science council ISCは、国際科学会議ICSU(1931年設立)と国際社会科学会議ISSC(1952年設立)が合併し、2018年7月に設立された世界的な学術組織である。グローバルな公共財としての科学を推進することをビジョンとし、科学のためのグローバルな声となることをミッションとしている。また、包括的な科学リテラシーと教育を推進する科学者を育成するために、科学教育のためのワーキンググループを設立することも検討されている。これには、科学の価値観、哲学、倫理観の理解向上、科学コミュニケーションと社会や国家政策との連携、学際的・分野横断的なスキル形成が含まれる。また、次世代が様々な情報源をより認識し、信頼できる情報源と信頼できない情報源を判別できるための科学リテラシーを特定することも含まれている。
科学と社会の関係がより直接的になるなか、科学への信頼を高めることがますます重要になっていまる。そのためにも、基礎的な科学知識と研究主導型の批判的思考能力、つまり科学リテラシーの向上さらに、世界、地域、国、そして地元のコミュニティにおける相互のコミュニケーションと協力が不可欠である。