14:30 〜 14:45
[U11-04] 複合災害の減災に資するデジタルトランスフォーメーション
★招待講演
キーワード:デジタルトランスフォーメーション、スーパーコンピューターを用いた災害シミュレーション、データ統合技術
複合災害の被害推定は自然現象のシミュレーションと社会現象のモデル化の組み合わせの高度な応用例である.先行現象,例えば地震による液状化や津波の影響による堤防の安全度低下の後に,後続災害,例えば台風による高潮および洪水が発生する場合の被害推定にシミュレーションを用いようとすると想像した場合,このような災害は広域災害になることが多く,かなり大きな工数が必要になる.
実際にそのようなことが発生するのか,恐怖心を煽っているだけではないかという疑念もあるだろう.地震の発生確率は低く,その直後に台風が同地を襲う確率などごく小さいと見積もることもできる.
地震による液状化で安定度が低下した堤防に,地震の1日後に台風による高潮と洪水が襲う確率はほとんどない点では同意する.しかし,安定度が低下した堤防は一定程度の調査・施工期間を経なければ復旧しないのであり,東日本大震災の場合,半年すなわち2011年の台風期が終わるまでに直轄河川の堤防の約2割が本復旧しておらず,海岸堤防の優先対策区間のうち約4割が応急対策を実施できていない(中井検裕,日本不動産学会誌,2011).二級河川と準用河川の総延長は,一級河川の総延長の約半分であり,これらの河川の復旧の進捗は一級河川より遅いことが一般的である.したがって南海トラフ地震や首都直下地震が生起した場合には,地震による液状化で安定度が低下した堤防の復旧がなされる前に,同地を襲う台風による高潮や洪水に襲われる可能性はかなり高いといえる.
また,東日本大震災を受けて国土交通省が堤防の耐震照査を行い,地震による安全度低下が見込まれる河川堤防や海岸堤防は対策を施しているので心配は不要という考え方もある.
デジタライゼーション(デジタル化)によって現状の堤防の内部構造や外形形状を公的データとして公開し,必要に応じて市民がシミュレーションを実施して安全度を確認することができれば,本当の意味で住民は安心した生活を送ることができる.
さらに,堤防復旧の進捗にあわせて生活の仕方を変える,すなわち堤防が復旧する前に台風による被害が見込まれるようであれば,早期に避難するなどがデジタルトランスフォーメーション(DX)の一つのあり方であろう.
新規に工事を行ったり復旧したりする堤防の情報をデジタル化することは比較的容易であるが,それらは管理事務所毎に異なる形式で提出されている現状を鑑みると,統一した形式でデータベース管理することは容易ではない.さらに河川の総延長が約15万km,海岸保全区域が1.4万kmあり,既存の河川堤防,海岸堤防の情報をデジタル化することは容易ではない.
そこで,本論では,大石(2021)で展開した「データの活用のためには計算プログラム以外に大容量データの高速検索,自動変換による非BIMデータのBIM活用」をさらに進めて,DXで先行災害の被害を広域的に把握し,後続複合災害の被害推定を行おうとする際の問題点と解決方法について述べる.具体的には,シミュレーションを用いた河川管理を実施する目的を想定して,必要なオリジナルのデータは存在するとして,それらを統合・変換してシミュレーション用の入力ファイルを作る際の工数削減方法について述べる.その際にデータ処理プラットフォーム(DPP)(大谷ら,2019)の考え方を紹介する.さらにアンサンブルシミュレーションを用いることで,不確実な情報に基づいていても利用価値のある被害推定を行うことができることをYamanoi et al. (2021)により示す.
実際にそのようなことが発生するのか,恐怖心を煽っているだけではないかという疑念もあるだろう.地震の発生確率は低く,その直後に台風が同地を襲う確率などごく小さいと見積もることもできる.
地震による液状化で安定度が低下した堤防に,地震の1日後に台風による高潮と洪水が襲う確率はほとんどない点では同意する.しかし,安定度が低下した堤防は一定程度の調査・施工期間を経なければ復旧しないのであり,東日本大震災の場合,半年すなわち2011年の台風期が終わるまでに直轄河川の堤防の約2割が本復旧しておらず,海岸堤防の優先対策区間のうち約4割が応急対策を実施できていない(中井検裕,日本不動産学会誌,2011).二級河川と準用河川の総延長は,一級河川の総延長の約半分であり,これらの河川の復旧の進捗は一級河川より遅いことが一般的である.したがって南海トラフ地震や首都直下地震が生起した場合には,地震による液状化で安定度が低下した堤防の復旧がなされる前に,同地を襲う台風による高潮や洪水に襲われる可能性はかなり高いといえる.
また,東日本大震災を受けて国土交通省が堤防の耐震照査を行い,地震による安全度低下が見込まれる河川堤防や海岸堤防は対策を施しているので心配は不要という考え方もある.
デジタライゼーション(デジタル化)によって現状の堤防の内部構造や外形形状を公的データとして公開し,必要に応じて市民がシミュレーションを実施して安全度を確認することができれば,本当の意味で住民は安心した生活を送ることができる.
さらに,堤防復旧の進捗にあわせて生活の仕方を変える,すなわち堤防が復旧する前に台風による被害が見込まれるようであれば,早期に避難するなどがデジタルトランスフォーメーション(DX)の一つのあり方であろう.
新規に工事を行ったり復旧したりする堤防の情報をデジタル化することは比較的容易であるが,それらは管理事務所毎に異なる形式で提出されている現状を鑑みると,統一した形式でデータベース管理することは容易ではない.さらに河川の総延長が約15万km,海岸保全区域が1.4万kmあり,既存の河川堤防,海岸堤防の情報をデジタル化することは容易ではない.
そこで,本論では,大石(2021)で展開した「データの活用のためには計算プログラム以外に大容量データの高速検索,自動変換による非BIMデータのBIM活用」をさらに進めて,DXで先行災害の被害を広域的に把握し,後続複合災害の被害推定を行おうとする際の問題点と解決方法について述べる.具体的には,シミュレーションを用いた河川管理を実施する目的を想定して,必要なオリジナルのデータは存在するとして,それらを統合・変換してシミュレーション用の入力ファイルを作る際の工数削減方法について述べる.その際にデータ処理プラットフォーム(DPP)(大谷ら,2019)の考え方を紹介する.さらにアンサンブルシミュレーションを用いることで,不確実な情報に基づいていても利用価値のある被害推定を行うことができることをYamanoi et al. (2021)により示す.