日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] 口頭発表

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[U-13] 2023年2月トルコ・東アナトリア断層帯の地震

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 展示場特設会場 (4) (幕張メッセ国際展示場)

座長:宇根 寛鷺谷 威(名古屋大学減災連携研究センター)

11:15 〜 11:30

[U13-03] SARによる地殻変動解析で明らかにされた2023年トルコの地震の断層破壊の詳細

*小林 知勝1宗包 浩志1、桑原 將旗1、古居 晴菜1石本 正芳1 (1.国土交通省国土地理院)

キーワード:合成開口レーダー、ALOS-2、地殻変動、断層モデル

はじめに
2023年2月6日01時17分(UTC),トルコでMw7.7の地震が発生した.その約9時間後には,本震の北で,Mw7.6の地震が発生した.本発表では,ALOS-2衛星の緊急観測データによるSAR干渉解析で得られた両地震の地殻変動の詳細とそれらから推定した断層モデルについて報告する.

データ・解析方法
本研究では,Lバンド合成開口レーダー衛星であるALOS-2のデータを用いた.ALOS-2はScanSARと呼ばれる350km幅を一度に観測できるモードを搭載している.本解析では,軌道番号path77(南行軌道・右観測)及びpath184(北向軌道・右観測)のScanSARモード観測によるデータの干渉処理により,広域の地殻変動を包括的に調べた.地殻変動の計測には,標準的なSAR干渉処理に加えて,南北方向の変動を検出するために,MAI法も適用した.最終的には,これら解析により得られた変動を用いて,3方向成分(東西,南北,上下) の変動を算出した.
さらに,得られた変動データを用いて,断層面上の滑り分布も推定した.後述するように,得られた変動場からは,断層破壊に相当するとみられる変位の不連続や急変帯が検出された.これらの情報を基にして,走向方向に4km,深さ方向に2kmのサイズの小断層で構成される断層面を設定し,最小二乗法により滑り方向及び滑り量を推定した.本解析では,上下動成分に大きな地殻変動が見られなかったことや地震波解析によるメカニズムの結果を考慮して,垂直の断層面を仮定した.各断層の滑りは空間上で滑らかに分布すると仮定して,Laplacian Operatorによるスムージング処理の拘束をかけた.滑らかさを制御する超パラメータはABICにより決定した.

地殻変動と断層モデルの特徴
 東アナトリア断層の西部は,南側及び北側に断層帯が分岐している.解析の結果,Mw7.7及びMw7.6の地震に伴う地殻変動はそれぞれ,南側及び北側の分岐断層帯に沿って分布している.南側の分岐断層沿いには,断層運動に相当するとみられる変位の不連続が300km弱の長さにわたり確認できる.不連続は,震源付近から東では走向約N60°Eの方向に伸びる一方,西側ではTürkoğlu付近でその走向を南西方向に変えてAntakya付近で終了している.この分岐断層帯は幾つかの断層セグメントで構成されていることが知られているが,変位不連続の位置から,Erkenekセグメント,Pazarcıkセグメント,Amanosセグメントが破壊されたと推察される.これらセグメントの全てで水平変位が卓越しており,左横ずれ運動と整合的である.最大約4mの変位が確認された.なお,本震付近では,Erkenekセグメントから南に派生してNarlıセグメントに向かう変位の急変帯が認められる.一方,Mw7.6の地震を引き起こしたと推定される北側の分岐断層帯では東西約100kmにわたり変位の不連続が確認でき,それらも水平成分が卓越し,左横ずれ運動と整合的である.最大約5mの変位が確認された.この変位不連続は,主にÇardakセグメントに沿ってほぼ一直線上に見られるが,東端及び西端でその走向を変えている.Çardakセグメントの東延長部にはSürgüセグメントがPazarcıkセグメントまで伸びていることが知られているが,変位の不連続は走向を北東に向きを変えSürgüセグメントの西端の一部と重なるも,それ以降はSürgüセグメント上には進まずそのまま北東方向にほぼ一直線に伸びる.今回の地震でSürgüセグメント上での破壊の進展を示唆する地殻変動は特段認められない.近傍には北東方向に伸びるMalatya断層があるがこの断層上には不連続は認められない.西端では,走向が南西に変わるがその延長上にあるSavrunセグメントにまでは明瞭な不連続は認められない.なお,上記両断層帯から距離が離れたKarataşセグメントにおいても約70kmにわたり数cm程度の変位の不連続が認められる.
 滑り分布の結果では,全ての断層面上でほぼ純粋な左横ずれの断層運動が推定された.断層面上の滑りは,両地震の断層とも概ね5km以浅に集中している.東アナトリア断層本体では10m前後の滑り量が推定されている一方,Çardakセグメントでは10mを超える滑りが推定されている.本発表では,さらに解析を進めた最新のすべり分布を報告する予定である.

謝辞:これらのデータは,地震予知連絡会SAR解析ワーキンググループ(地震WG)を通じて,(国研)宇宙航空研究開発機構(JAXA)から提供を受けました.ここで使用しただいち2号の原初データの所有権は,JAXAにあります.