日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS06] 台風研究の新展開~過去・現在・未来

2024年5月31日(金) 13:45 〜 15:00 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:辻野 智紀(気象研究所)、金田 幸恵(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、伊藤 耕介(京都大学防災研究所)、宮本 佳明(慶應義塾大学 環境情報学部)、座長:辻野 智紀(気象研究所)


13:45 〜 14:00

[AAS06-01] 将来気候における確率台風イベントの作成に関する検討

*荒井 崇嘉1鶴島 大樹1大楽 浩司2 (1.SOMPOリスクマネジメント株式会社、2.筑波大学)

気候変動に伴う台風災害の激甚化が懸念されている。環境省(2023)*1では、令和元年台風第19号(Hagibis)および平成30年台風第21号(Jebi)を対象に、地球温暖化が進行した条件下で同様の台風が襲来した場合の影響についてシミュレーションを行い、いずれの場合においても河川氾濫、風災、高潮のリスクが高まることを示した。

激甚な自然災害は損害保険会社にとって火災保険金支払いの増加要因になる。台風災害が気候変動で激甚化する傾向にあるならば、保険金支払額が将来にわたって増加してゆくことが予想される。持続的に保険商品を提供するためには、定量的な評価に基づく適切なリスク管理が求められる。

台風による災害のうち、風災のリスクとその不確実性を定量的に可視化する手法のひとつとして、確率台風イベントセットを使用したリスク評価モデル(CATモデル)の活用が挙げられる。確率台風イベントセットは、過去観測データ等に基づいて統計的にモデリングし、コンピュータ上でランダムシミュレーションを行って得られる多数の仮想台風イベントを収録したものである。このイベントセットを用いることで風災リスクを定量的に評価することが可能になる。

確率台風イベントセットは現在気候に対して作成されることが多く、将来気候を対象に作成される事例は少ない(例えば:梅田ほか(2019)*2)。本研究ではまず、地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(d4PDF)から台風を抽出し、現在気候と将来気候(2℃上昇シナリオ、4℃上昇シナリオ)の差異を確認した。d4PDFに基づく熱帯低気圧トラックについては公開されているものもあるが、既存の確率台風イベントセット作成で用いた台風抽出ロジックとの整合性を取る必要があったため、改めて台風トラックを抽出することとした。さらに、公表されているトラックデータには含まれない2℃上昇シナリオについてもd4PDFから台風トラックを抽出した。

将来気候において台風の発生個数は減少するものの、主要な発生点が現在気候と比べて北へ移る傾向にあった。また、台風経路をクラスター分析すると将来気候では現在気候と比べてフィリピン海を西進する台風は減少し、日本列島の南東沖を北上する台風は増加する傾向にあった。これらの分析結果をふまえ、将来気候における確率台風イベントの作成について検討した。

*1:環境省, 勢力を増す台風~我々はどのようなリスクに直面しているのか~2023, 2023.
*2:梅田尋慈,中條壮大,森信人 : 大規模アンサンブル気候予測データ(d4PDF)を用いた全球確率台風モデルの開発,土木学会論文集B2(海岸工学), Vol. 75, No. 2, pp. I_1195-I_1200, 2019.