15:30 〜 16:00
[AAS06-06] 海鳥バイオロギングによる台風観測
★招待講演
キーワード:バイオロギング、台風観測、海上風、データ同化
台風は強風や豪雨を伴う顕著な現象であるにも関わらず、直接観測には費用と危険が伴うため、数値モデルや遠隔観測に頼らざるを得ない。しかし、遠隔観測の精度を評価し、実際の台風のメカニズムを解明するには、直接観測が必須である。近年、生態学の分野で発展してきた、動物にセンサーを取り付け、行動、環境、生理を計測する「バイオロギング」と呼ばれる手法を、気象海洋観測に応用する研究が始まっている。また、海鳥が台風中心に向かって飛ぶ傾向があることも報告されており(Lempidakis et al.(2022) 、Nourani et al.(2023))、バイオロギングによる台風の直接観測が期待される。そこで本研究では、日本沿岸で台風付近を飛行したオオミズナギドリのバイオロギングデータで得られた、風と気温の精度検証と領域大気同化システムによる同化実験を行い、バイオロギングデータの台風観測としての可能性を検討する。
同化実験で用いる海上風の推定に使用したデータは、新潟県粟島に営巣し日本海から北海道太平洋沿岸にかけて採餌飛行を行うオオミズナギドリ延べ483羽分のGPS トラッキングデータである。Goto et al. (2017)を元にした海上風を推定する手法を適用し、2008年から2022年までの8、9月における海上風のデータセットを作成した。気象庁MSMの地表風を用いてこの鳥推定風の精度検証を行い、バイアス補正と品質管理を行ってデータ同化に用いた。同化実験には、日本域 5 km 解像度の領域再解析システムNHM-LETKF(Fukui et al. 2018)を用いた。気象庁ベストトラックデータを用いて、鳥が台風中心から半径300 km 以内を飛行していた事例を計13事例抽出し、各事例での鳥観測が台風の解析に与える影響を調べた結果、2018年台風20号Cimaronに対する同化実験で大きなインパクトが見られた。この事例では、鳥が台風中心から100 km 以内の場所を観測しており、鳥観測を同化することで台風強度は弱まると共に、強度・進路予報についても有意な改善がみられた。
次に、Shiomi(2023)で報告された2019年台風15号Faxaiの内部に巻き込まれながら飛行したオオミズナギドリの位置情報から風速を推定し、気象庁MSM や非静力学モデルCReSS による再現実験(Kanada and Aiki 2024)の結果、および気象庁のドップラーレーダーとウインドプロファイラによる風観測値との比較検証を行った。鳥から推定された風は概ね整合的であり、台風の風を測るトレーサーとして利用可能であることが示唆された。
また、同時に記録されていた気温についてもモデル・解析値との比較を行い、鳥自身の体温によるバイアスや日射の有無・風速の強弱といった観測条件に制約はあるものの、相応の精度で計測可能であることが示唆された。
参考文献
Fukui et al. (2018). Journal of the Meteorological Society of Japan, 96(6), 565‒585. DOI: 10.2151/jmsj.2018-056
Goto et al. (2017). Science Advances, 3(9), e1700097, DOI: 10.1126/sciadv.1700097
Kanada & Aiki (2024). Geophysical Research Letters, 51(1), e2023GL105659, DOI: 10.1029/2023GL105659
Lempidakis et al. (2022). Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 119(41), e2212925119, DOI: 10.1073/PNAS.2212925119
Nourani et al. (2023). Current Biology, 33, 1179–1184, DOI: 10.1016/j.cub.2023.01.068
Shiomi (2023). Ecology, e4161, DOI: 10.1002/ecy.4161
同化実験で用いる海上風の推定に使用したデータは、新潟県粟島に営巣し日本海から北海道太平洋沿岸にかけて採餌飛行を行うオオミズナギドリ延べ483羽分のGPS トラッキングデータである。Goto et al. (2017)を元にした海上風を推定する手法を適用し、2008年から2022年までの8、9月における海上風のデータセットを作成した。気象庁MSMの地表風を用いてこの鳥推定風の精度検証を行い、バイアス補正と品質管理を行ってデータ同化に用いた。同化実験には、日本域 5 km 解像度の領域再解析システムNHM-LETKF(Fukui et al. 2018)を用いた。気象庁ベストトラックデータを用いて、鳥が台風中心から半径300 km 以内を飛行していた事例を計13事例抽出し、各事例での鳥観測が台風の解析に与える影響を調べた結果、2018年台風20号Cimaronに対する同化実験で大きなインパクトが見られた。この事例では、鳥が台風中心から100 km 以内の場所を観測しており、鳥観測を同化することで台風強度は弱まると共に、強度・進路予報についても有意な改善がみられた。
次に、Shiomi(2023)で報告された2019年台風15号Faxaiの内部に巻き込まれながら飛行したオオミズナギドリの位置情報から風速を推定し、気象庁MSM や非静力学モデルCReSS による再現実験(Kanada and Aiki 2024)の結果、および気象庁のドップラーレーダーとウインドプロファイラによる風観測値との比較検証を行った。鳥から推定された風は概ね整合的であり、台風の風を測るトレーサーとして利用可能であることが示唆された。
また、同時に記録されていた気温についてもモデル・解析値との比較を行い、鳥自身の体温によるバイアスや日射の有無・風速の強弱といった観測条件に制約はあるものの、相応の精度で計測可能であることが示唆された。
参考文献
Fukui et al. (2018). Journal of the Meteorological Society of Japan, 96(6), 565‒585. DOI: 10.2151/jmsj.2018-056
Goto et al. (2017). Science Advances, 3(9), e1700097, DOI: 10.1126/sciadv.1700097
Kanada & Aiki (2024). Geophysical Research Letters, 51(1), e2023GL105659, DOI: 10.1029/2023GL105659
Lempidakis et al. (2022). Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 119(41), e2212925119, DOI: 10.1073/PNAS.2212925119
Nourani et al. (2023). Current Biology, 33, 1179–1184, DOI: 10.1016/j.cub.2023.01.068
Shiomi (2023). Ecology, e4161, DOI: 10.1002/ecy.4161
