11:30 〜 11:45
[AAS07-04] 2019年台風19号(Hagibis)の広域降水に対する過去・将来の温暖化の影響~領域気象モデルによる擬似温暖化・非温暖化実験~
キーワード:温暖化、台風、大雨
2019年台風19号(Hagibis)は10月12日から13日にかけて東日本を通過し、関東地方から東北地方にかけて記録的な大雨が生じた。温暖化はHagibisがもたらした降水量を大幅に増加させると報告されている1,2。しかし、先行研究では温暖化の影響を異なる数値モデルを用いて評価しているため(過去の温暖化の影響はJMA-NHM1、将来の温暖化の影響はCReSS2)、温暖化の進行に対するHagibisの広域降水の応答をシームレスに解析することが難しい。
本研究は、Hagibisの再現実験(CTLラン)、2度温暖化実験(2Kラン)、4度温暖化実験(4Kラン)、非温暖化実験(NWラン)を同一モデル・計算条件で実施することで、気候変動に対するHagibisの広域降水の変化をシームレスに調査した。
本研究では領域気象モデル(WRF)を使用し、初期時刻を2019年10月8日00 UTCから10日18 UTCまで6時間ずつずらした数値シミュレーションを実施した(全12メンバー)。雲微物理スキームはWSM6 Scheme、境界層スキームはYSU Scheme、放射スキームはRRTMを適用し、積雲対流パラメタリゼーションは用いない。初期値・境界値には水平解像度1°×1°のNCEP FNLを使用した(CTLラン)。
将来の温暖化差分は、地球温暖化対策に資するアンサンブル気象予測データベース(d4PDF)に収録されている、2度および4度温暖化シナリオに基づく将来気候の10月気候値(2051年から2080年の30年平均値)から過去実験の10月気候値(1981年から2010年の30年平均値)を引いたものとして定義し、CTLランの初期値・境界値に加えた(2Kラン、4Kラン)。非温暖化差分は、d4PDFに収録されている温暖化トレンド除去実験と過去実験の10月気候値(1981年から2010年の30年平均値)から作成し、CTLランの初期値・境界値から取り除いた(NWラン)。温暖化・非温暖化差分は海面水温(SST)、地上気温、気温の3変数のみ考慮した。
各シミュレーションから得られた10月11日00 UTCから13日00 UTCまでの積算雨量を比較すると、日本周辺の気温とSSTが昇温するにしたがって、東日本におけるHagibisに伴う雨量は増加することが示された。興味深いことに、積算雨量の増加量や増加率は、関東地方よりも東北地方の方が大きくなる傾向にあった。関東(東北)地方における積算雨量の変化率は、CTLランに対して、NWランでは-4%(-5%)、2Kランでは+4%(+11%)、4Kランでは+11%(+23%)であった。関東地方と東北地方との間の積算雨量の変化率の大きな違いは、温暖化に対するHagibisの降水システムの応答と関連している。Hagibis の北側から北西側の対流圏中層に注目すると、2Kランや4Kランでは湿潤な対流不安定層が広範囲に形成されていた。このような熱力学的環境場は降水システムの発達に有利であるため、Hagibisの北側から西側に位置するアウターレインバンドの強化や強い降水の範囲の拡大に寄与した。また、NWランでは、統計的有意性は小さいものの、2Kランや4Kランとは反対の結果が得られた。温暖化の影響を受けたアウターレインバンドは主に東北地方を通過していたため、2Kランや4Kラン(NWラン)におけるHagibisによる積算雨量は、関東地方よりも東北地方で顕著に増大(減少)する結果が得られたと考えられる。
さらに、擬似温暖化・非温暖化実験は、Hagibisのアウターレインバンドが発達するにつれて、東北地方における積算雨量300 mm を記録する地域が大きく増加する傾向にあることを示した。CTLランに対する面積変化率は、NWランでは-11%、2Kランでは+22%、4Kランでは+52%と見積もられた。そのため、将来、Hagibisに似た台風が東日本に接近・通過した際の洪水リスクは、関東地方よりも東北地方において大幅に増大することが示唆される。
1:Kawase et al., 2021. Enhancement of extremely heavy precipitation induced by Typhoon Hagibis (2019) due to historical warming. SOLA, 17A, 7−13.
2:Kanada et al., 2021. Projection of future enhancement of heavy rainfalls associated with Typhoon Hagibis (2019) using a regional 1-km-mesh atmosphere-ocean coupled model. SOLA, 17A, 38–44.
本研究は、Hagibisの再現実験(CTLラン)、2度温暖化実験(2Kラン)、4度温暖化実験(4Kラン)、非温暖化実験(NWラン)を同一モデル・計算条件で実施することで、気候変動に対するHagibisの広域降水の変化をシームレスに調査した。
本研究では領域気象モデル(WRF)を使用し、初期時刻を2019年10月8日00 UTCから10日18 UTCまで6時間ずつずらした数値シミュレーションを実施した(全12メンバー)。雲微物理スキームはWSM6 Scheme、境界層スキームはYSU Scheme、放射スキームはRRTMを適用し、積雲対流パラメタリゼーションは用いない。初期値・境界値には水平解像度1°×1°のNCEP FNLを使用した(CTLラン)。
将来の温暖化差分は、地球温暖化対策に資するアンサンブル気象予測データベース(d4PDF)に収録されている、2度および4度温暖化シナリオに基づく将来気候の10月気候値(2051年から2080年の30年平均値)から過去実験の10月気候値(1981年から2010年の30年平均値)を引いたものとして定義し、CTLランの初期値・境界値に加えた(2Kラン、4Kラン)。非温暖化差分は、d4PDFに収録されている温暖化トレンド除去実験と過去実験の10月気候値(1981年から2010年の30年平均値)から作成し、CTLランの初期値・境界値から取り除いた(NWラン)。温暖化・非温暖化差分は海面水温(SST)、地上気温、気温の3変数のみ考慮した。
各シミュレーションから得られた10月11日00 UTCから13日00 UTCまでの積算雨量を比較すると、日本周辺の気温とSSTが昇温するにしたがって、東日本におけるHagibisに伴う雨量は増加することが示された。興味深いことに、積算雨量の増加量や増加率は、関東地方よりも東北地方の方が大きくなる傾向にあった。関東(東北)地方における積算雨量の変化率は、CTLランに対して、NWランでは-4%(-5%)、2Kランでは+4%(+11%)、4Kランでは+11%(+23%)であった。関東地方と東北地方との間の積算雨量の変化率の大きな違いは、温暖化に対するHagibisの降水システムの応答と関連している。Hagibis の北側から北西側の対流圏中層に注目すると、2Kランや4Kランでは湿潤な対流不安定層が広範囲に形成されていた。このような熱力学的環境場は降水システムの発達に有利であるため、Hagibisの北側から西側に位置するアウターレインバンドの強化や強い降水の範囲の拡大に寄与した。また、NWランでは、統計的有意性は小さいものの、2Kランや4Kランとは反対の結果が得られた。温暖化の影響を受けたアウターレインバンドは主に東北地方を通過していたため、2Kランや4Kラン(NWラン)におけるHagibisによる積算雨量は、関東地方よりも東北地方で顕著に増大(減少)する結果が得られたと考えられる。
さらに、擬似温暖化・非温暖化実験は、Hagibisのアウターレインバンドが発達するにつれて、東北地方における積算雨量300 mm を記録する地域が大きく増加する傾向にあることを示した。CTLランに対する面積変化率は、NWランでは-11%、2Kランでは+22%、4Kランでは+52%と見積もられた。そのため、将来、Hagibisに似た台風が東日本に接近・通過した際の洪水リスクは、関東地方よりも東北地方において大幅に増大することが示唆される。
1:Kawase et al., 2021. Enhancement of extremely heavy precipitation induced by Typhoon Hagibis (2019) due to historical warming. SOLA, 17A, 7−13.
2:Kanada et al., 2021. Projection of future enhancement of heavy rainfalls associated with Typhoon Hagibis (2019) using a regional 1-km-mesh atmosphere-ocean coupled model. SOLA, 17A, 38–44.