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[AAS08-08] 気象レーダにおけるスパースモデリングを利用した風車エコー除去手法

キーワード:気象レーダ、風車エコー、スパースモデリング、レンジ-周波数空間、凸最適化
環境保護やエネルギー自給率向上の観点から、風力発電をはじめとする再生可能エネルギーへの注目が高まっている。しかし、レーダによる気象観測においては、こうした風力発電施設(風車)は偽のエコーを発生させ、観測に重大な影響を及ぼすものとして知られている。偽のエコー(クラッタ)は、雨滴以外の物体(地面や海面、建物など)で反射した電波がレーダに受信されることで現れる。パルスドップラーレーダでは、同一の方向に複数回電波を送信し、各受信波の相関を解析することで対象物のドップラー速度を検出する。降雨エコーが風や雨滴の落下の影響によって非ゼロのドップラー速度を示すのに対し、地面や建物によるクラッタはドップラー速度がゼロとなるため、従来のMTI(Moving Target Indicator)方式ではドップラー速度ゼロに相当する周波数成分(直流成分)を除去することで降雨エコーとクラッタの分離を行う。しかし、風を受けて回転する風車によるクラッタは、非ゼロのドップラー速度を示すことから従来のMTIでは降雨エコーと区別できず、誤って降雨として検出されてしまっていた。本研究では、風車エコーの持つスパース性に着目し、スパースモデリングを利用した風車エコー除去手法を提案する。雨滴が分布型標的であることと風速や各雨滴の落下速度の変動から、降雨エコーのドップラー速度分布は距離方向と速度方向(周波数方向)に広がりを持つ。一方で、風車は一定速度で回転している孤立型標的とみなせるため、風車エコーのドップラー速度分布は一点に集中すると考えられる。したがって、本研究では風車エコーを距離-周波数空間においてスパースな信号と仮定する。そして、スパースモデリングの知見に基づいて凸最適化問題を構築し、この問題を反復アルゴリズムによって解くことで降雨エコーと風車エコーを分離する。シミュレーションでは、実際の降雨エコーに人工的な風車エコーを重畳させた受信信号を用意し、提案手法によって受信信号から風車エコーを適切に分離できることを示す。