日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS08] 気象学一般

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:那須野 智江(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、久保田 尚之(北海道大学)、Sugimoto Shiori(JAMSTEC Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology)、清水 慎吾(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

17:15 〜 18:45

[AAS08-P11] 大規模大気場と2019年の西太平洋の台風活動の関係:大アンサンブル数値実験

*那須野 智江1,3菱沼 美咲2,1山田 洋平1中野 満寿男1,3小玉 知央1,3筆保 弘徳2,3 (1.国立研究開発法人 海洋研究開発機構、2.横浜国立大学、3.横浜国立大学 台風科学技術研究センター)

キーワード:台風、大アンサンブル数値シミュレーション、大規模大気場、2019年夏季

台風は大規模場に対して受動的に応答するだけでなく、大規模と相互作用する。台風に伴う遠隔影響が水蒸気や降水に現れる例として、pre-typhoon rainfalls (PRE) が知られている。また、台風により太平洋高気圧の配置や強度が変動し、それが台風自身の経路や移動速度に影響を及ぼすこともある。このような相互作用を正確に見積もることができれば、災害対策や気象介入の可能性に対し有益である。一方で、台風はまとまって発生する傾向があり、台風と大規模場の相互作用は複数の台風の位置や相対的な強さにも依存する。本研究では、台風強度に注目し、2019年夏季の事例について、西太平洋の水蒸気や力学場との関係を理解することを目的とする。
2019年の9月初めに、台風LinglingとFaxaiがそれぞれ東シナ海と日本の南海域で発生した。Faxaiは小型の強い台風として9月9日に日本に上陸した。Faxaiを対象とする全球非静力学モデルを用いた高解像度大アンサンブル数値実験データを活用し(Yamada et al. GRL, 2023)、シミュレートされたFaxaiの東京付近通過時の強度と大規模場の相関分布を調べた。その結果、台風の東京付近通過時の強度と北海道の東海上の水蒸気偏差に有意な正の相関が、台風接近前の2日間にわたって見られた。これは台風の遠隔影響による湿潤化を示唆する。台風が強いメンバーと弱いメンバーのそれぞれについて、下層風と水蒸気の合成解析を行い、違いを調べた。Faxaiが強いメンバーでは、隣接する太平洋高気圧の西端部で高気圧が強化され、台風との間に強い南風が形成されて北海道の東海上の湿潤偏差域へと繋がっていた。一方Faxaiが弱いメンバーでは、より北西向きの下層風が本州中央部上に幅広く分布し、西(東)に大規模な低(高)圧部を伴い、西の低圧部にはLingling に類似する低気圧性の擾乱が内包されていた。また、Faxaiが強いメンバーでは、下層風の流れはフィリピン東海上に接続しており、Faxaiが弱いメンバーでは、東南アジアのモンスーン西風と接続していた。以上の結果は、複数の台風の強度と主な水蒸気の流路が系統的な関係を持つことを示唆する。