日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS09] 大気化学

2024年5月27日(月) 09:00 〜 10:30 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:入江 仁士(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、中山 智喜(長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科)、石戸谷 重之(産業技術総合研究所)、江波 進一(国立大学法人筑波大学)、座長:入江 仁士(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)

10:15 〜 10:30

[AAS09-06] 南鳥島におけるCO2濃度変動の特徴とその起源

*長谷川 朝香1今須 良一1大橋 勝文2丹羽 洋介3 (1.東京大学大気海洋研究所、2.鹿児島大学、3.国立環境研究所)

キーワード:二酸化炭素、南鳥島、NDIR、GOSAT、地上リモートセンシング

南鳥島はCO2観測衛星の海上データの検証点に適すると期待される他、NICAM-TM等のCO2輸送モデルのバックグラウンド観測点としても活用される。しかし、既往研究では、時折、特有の大きな濃度変動が報告され、主な要因として大陸からの空気塊の輸送が指摘されている(Wada et al.,2007)。また、島内には植物や、発電所・焼却炉が存在し、その影響が懸念される。そこで、南鳥島が衛星観測の検証点やモデルのバックグラウンド観測点として適するかの評価を目的とし、南鳥島での特異なCO2の濃度変動発生の頻度や発生時期、変動規模の解明を試みた。
 World Data Centre for Greenhouse Gases(WDCGG)から気象庁の直接観測(NDIR)による地上濃度の時間別データ(28 年)を取得し、季節変動や経年変動から逸脱したイベントを抽出した。変動の要因として、既往研究で指摘された大気の輸送に加えて、島内の植生や焼却炉・発電所の影響も考慮に入れることとした。そこで、既往研究同様の後方流跡線の解析に加え、イベントの発生時刻や継続時間を取得し、イベント時の風の解析、フットプリント計算も行った。また、燃焼起源のトレーサーとして一酸化炭素(CO)濃度も用いた。
 設定した基準を超える高濃度現象は28年で128回抽出された。まず、COとCO2がともに高濃度であり、風向は島内からで継続時間が短いピークがあることが確認された。これらのピークは島内の焼却炉・発電所の影響を受けて高濃度となった可能性が示唆される。一方、COとCO2がともに高濃度かつ、継続時間が長いピークも存在し、遠方の燃焼による排出源から空気塊が輸送されてきた結果高濃度となったと考えられた。これらのピークについて後方流跡線の解析により、中国や日本方面から空気塊が輸送された可能性があることが分かった。この高濃度現象の1例で地上濃度の上昇と同様にファイバーエタロン分光器(FES-C)で観測したカラム平均濃度も上昇した可能性が示唆され、大陸から輸送されてきた空気塊がカラム平均濃度にも影響を与えると考えられた。高濃度現象のうち、CO濃度は低濃度で、風向は島内方向から、かつ継続時間が短いピークも存在した。これはフットプリント計算からも島内の植物の呼吸の影響を受けて高濃度となった可能性が高い。
 低濃度現象は28年間で87回起きていた。低濃度のピークのうち継続時間が長いものの傾向を解析した結果、風向は主に島外方向からで、既往研究の指摘と同様に夏季に集中していた。よってこれらのピークは遠方の吸収源から輸送された空気塊の影響を受けていると考えられた。後方流跡線解析を試み、極東ロシア周辺の低濃度地域由来の空気塊であることが示された。低濃度のピークのうち、風向が島内方向からのピークに着目すると、それらは継続時間が短く、日中に起きやすい傾向であった。そのため、島内の植物の光合成の影響が示唆され、フットプリント計算でも島内の植物の影響が示された。
以上のような濃度変動現象の特性をふまえ、その濃度変動がNICAM-TMによるモデル計算で再現されているか考察を行った。その結果、経年変動や季節変動、総観規模の時間規模の変動現象まではよく再現されており、既往研究で指摘されていた大規模な空気塊の輸送に類似した現象も再現していた。しかし、モデル計算では季節変動の幅が観測よりも小さく見積もられており、モデルで用いられるグローバルオフセット値のずれが2ppm程度である可能性が示唆された。また、時間規模が1日程度以下の短い変動現象はモデルの水平解像度(約240km)に対応して再現が難しいことも分かった。
 以上の結果から、南鳥島で測定されたCO2濃度データをバックグラウンド値として利用する場合には、高濃度、低濃度のイベント時のデータを慎重に取り扱う必要があると言える。