日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS09] 大気化学

2024年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:入江 仁士(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、中山 智喜(長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科)、石戸谷 重之(産業技術総合研究所)、江波 進一(国立大学法人筑波大学)、座長:原 圭一郎(福岡大学理学部地球圏科学科)

13:45 〜 14:00

[AAS09-13] 極域におけるデータ駆動型大気中微量物質輸送モデルの構築

★招待講演

*鈴木 香寿恵1冨川 喜弘2原 圭一郎3矢吹 正教4中野 慎也5平沢 尚彦2 (1.法政大学、2.国立極地研究所、3.福岡大学、4.京都大学、5.統計数理研究所)

キーワード:流跡線解析、データ同化、機械学習、エアロゾル大気の川

南極大陸は周りを海に囲まれ他の大陸から隔離されているために,これまで二酸化炭素濃度の長期間にわたる測定など地球環境のモニタリングにおいて適した場所とされている.しかしながら,その立地故の過酷な環境や交通の不便のため,連続的な現地観測の継続自体が難しい.また,南極ドームふじ基地をはじめとした各国が採取しているアイスコアの成分分析を通じて,古気候変動の理解を深め,将来予測へつなぐ研究が盛んに行われている.沿岸にある昭和基地から内陸ドームふじ基地までを移動する内陸ルートでは,90年代より雪尺による涵養量の計測と共に表面積雪の採取が行われてきた.その成分分析結果は,南極の地形とその影響を受けた気象場によって大気による物質輸送に地域性があることを示唆している.本研究は,これまで蓄積された様々な大気中エアロゾルや表面積雪やアイスコアに含まれる様々な物質のデータを元に,データ駆動型エアゾロル輸送モデルの構築を行う.データ駆動とは,モデルの意思決定をデータを元に機械学習や統計手法によって行うことであり,物理を丁寧に解く気象モデルによるシミュレーションとは異なる.本モデルが目指すのは気象シミュレーションよりも計算機資源を必要としない上,計算速度や予測精度を同程度以上に得ることである.
これまで昭和基地において観測された大気中微量物質濃度の急激な変化の要因を調べる際に,流跡線解析が主として利用されている.流跡線解析とは,大気場に仮想粒子を置き,風速場によって移流される様子をトラッキングする手法である.タイムステップ毎の予測位置は点推定であるため,その誤差は予測時間が増えるほど指数関数的に増加することは陽である.この問題を解決するため,粒子の初期位置に摂動を加えて複数の流線を計算し,頻度分布などを作成するという手法などが用いられているが,本研究では各ステップにおける予測位置に対する誤差をそれぞれ推定する,データ同化の手法を取り入れる.これまで点推定となっていた粒子の予測位置に確率分布を与えることで,その予測がどの程度信頼できるのか把握が可能となる.さらに,大気中微量物質としてブラックカーボンをターゲットとし.GCOM-C/SGLIをはじめとする衛星観測による大気エアロゾル光学的厚さの高濃度エリアをエアロゾル放出イベントとして捉え,南極へ輸送されるかトラッキングを行う.データ同化型流跡線解析を用いて生成された大気輸送経路と客観解析気象データ自体を学習対象として,衛星による高濃度エリアの移動を予測し,衛星画像と南極昭和基地における大気中エアロゾル濃度をGround Truthとしてその予測モデルの精度を向上させる.最終的には,衛星観測によってエアロゾル放出イベントを捉えた際にエアロゾル輸送を自動予測し,昭和基地でのエアロゾル濃度を観測値として比較し整合性を評価する.モデル精度が保証された後は,表面積雪やアイスコア中の物質輸送について再現実験を行い,将来予測にもつないでいきたい.
今回は研究自体の枠組を紹介し,現在進めているイベント解析結果と拡張された輸送経路による予測を紹介する.