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[AAS09-18] MAX-DOAS法を用いたコロナ禍を含む長期連続観測による日本の大気境界層中の二酸化硫黄濃度変動の要因解明

キーワード:SO2、MAX-DOAS、大気境界層、コロナ禍
気候変動に寄与するだけでなく大気汚染や健康被害を引き起こすSO2は、空間代表性がより高い形で高濃度が顕在化する大気境界層中においては長期観測データが不足しており、特にコロナ禍期間においては濃度変動要因の系統的な理解には至っていない。本研究では、地上リモートセンシング手法のひとつである多軸差分吸収分光法 (Multi-Axis Differential Optical Absorption Spectroscopy ; MAX-DOAS) を用いて大気境界層の紫外領域の長期連続観測を行った。観測サイトは日本の異なる地理的特徴を持つ仙台・つくば・千葉・春日・福江の5サイトであり、最大11年間の連続長期データを取得することができた。バックトラジェクトリー解析を行ったところ、西日本に位置する春日・福江サイトではSO2濃度が最も高い日にサイトの中央値の10倍以上のSO2濃度が観測され、火山噴火の影響が強く示唆された。一方で、千葉・つくば・仙台サイトでは高濃度日に港や沿岸部周辺の発電所や工場の影響が強く示唆された。千葉サイトでは4台のMAX-DOASを東西南北の4つの異なる方向に向けて観測している。千葉サイト南方向の2019年の前半8か月と2020年の後半8か月を比較するとSO2濃度は平均で59%も減少していることが分かった。この要因は千葉サイト南方向に位置している姉崎火力発電所の老朽化による休止やコロナ禍における鉄の需要減少による君津の製鉄所の縮小運転が関係していることが推察された。2022年以降、千葉サイトにおいて風向・風速の解析を行った結果、南西からの風が吹いている際にSO2濃度が高くなる傾向があり、千葉サイト南西方向にある火力発電所や東京湾上の船舶の影響が示唆される結果が得られた。また本発表では、機械学習を用いてコロナ禍前のデータからコロナ禍のSO2濃度を推定し、実際の観測結果と比較することによってSO2濃度変動について考察した結果についても示す予定である。