日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS09] 大気化学

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:入江 仁士(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、中山 智喜(長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科)、石戸谷 重之(産業技術総合研究所)、江波 進一(国立大学法人筑波大学)

17:15 〜 18:45

[AAS09-P06] つくばFTIRで観測されたメタン同位体比の経年変化

*村田 功1長浜 智生2森野 勇3中島 英彰3 (1.東北大学大学院環境科学研究科、2.名古屋大学宇宙地球環境研究所、3.国立環境研究所)

キーワード:フーリエ変換型分光計、メタン、同位体

東北大学と国立環境研究所では、つくばでの Network for the Detection of Atmospheric Composition Change (NDACC) 観測規約に基づくFTIR観測を1998年から行っている。この観測では広い波数領域のスペクトルを高波数分解能で取得できるため、様々な成分の解析が可能である。現在メタン同位体の解析を行っているので、その結果について報告する。
同位体比は発生源によって異なるほか、化学反応でも分別が起こることがあり、大気中の同位体比を測定することでこれらの情報が得られる。ただし、同位体比を求めるには高精度な観測が必要で、これまで大気中の同位体を利用した研究は主にサンプリングデータの高精度な分析によって発展してきた。
一方、赤外分光では絶対量の少ない同位体でも吸収強度の強い吸収線を用いれば解析は可能であるが、吸収線の強度などに数%程度の不確定性があることが多く、‰単位の微少な絶対値を精度よく求めることは難しい。しかし、同位体比の相対的な変動は%オーダーであることも多く、吸収線強度の不確定性はバイアスとして全てのデータに同様に効くため相対変動には影響しない。そこで、ノイズ等によるランダム誤差を%程度に抑えられれば、相対的な変動から発生源等に関する議論は可能ではないかと考え、検討を始めた。なお、解析にはNDACC/InfraRed Working Group (IRWG) で共通して用いられている、ロジャーズ法を用いたスペクトルフィッティングプログラムSFIT4を使用している。
現在はメタンについて解析を進めている。メタンには12CH4の他に13CH412CH3Dといった安定同位体が存在する。12CH4では3 µm付近の3つの波長領域を合わせて解析しているが、同位体の13CH412CH3Dについても同じく3 µm付近のほか8 µm付近にも比較的強度の強い吸収線が存在する。
まず、2021年に観測されたスペクトルを用いて3 µm帯の4つの波数領域を組み合わせて12CH3Dを解析してみたところ、比較的ランダム誤差の小さな結果が得られた。メタンのδDは比較的大きな経年変化を示しているようなので、2014年と2023年でも解析してみて同日観測の12CH412CH3Dのカラム全量からδDを求めてみたところ、2023年は2014年に比べて低めの値となり、この傾向はサンプリングによる地上観測の結果と整合的であった。
現状ではまだフィッティングの精度も良いとは言えないが、今後最適な波長領域の組み合わせや吸収の重なっている干渉成分の影響を最小化する手法などを検討していく予定である。