日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS09] 大気化学

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:入江 仁士(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、中山 智喜(長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科)、石戸谷 重之(産業技術総合研究所)、江波 進一(国立大学法人筑波大学)

17:15 〜 18:45

[AAS09-P16] 森林からのバイオエアロゾル放出フラックス直接測定のフィージビリティ

南尾 健太1、*北 和之1、反町 篤行2、中川 照喜1石塚 正秀3、保坂 健太郎4、渡辺 幸一5 (1.茨城大学理工学研究科、2.東洋大学理工学部、3.香川大学工学部、4.国立科学博物館、5.富山県立大学工学部)

キーワード:バイオエアロゾル、フラックス計測、森林

研究背景・目的
 細菌、胞子、花粉など生物圏から大気中に放出される一次粒子をバイオエアロゾル (Bio Aerosol、以下 BA)と呼ぶ。BAのうち細菌や真菌胞子の一部は、他の粒子に比べ 高温(0〜-15℃)で氷晶核となるため大気科学において重要性が認められている。また、真菌胞子は放射性セシウムの大気再飛散の担体として働くことも分かっている。BAを定量しその役割を評価する上で、発生源からのBA放出量(フラックス)を求める必要があるが、直接測定した結果はこれまでほとんど報告がない。南 他(2020)は、BA放出フラックスを観測とモデルから推定し、森林の林床から上空大気への輸送効率が非常に低いことを示した。そこで本研究では、森林から大気へのBA放出は、大気に接し乱流運動が活発な樹冠最上部で主に起こっていると考え、この領域でBA放出フラックスを測定することを目標とし、有意なフラックス測定が可能となる条件を明確にし、実際の観測によりその実現可能性を検討することを目的とする。

2.研究手法
BA放出フラックスの直接測定は、傾度法と緩和渦集積(REA)法の2手法で行った。 傾度法では、BA濃度の高度変化 ΔCと拡散係数からフラックスを測定する。REA法では、鉛直風速が上向き時および下向き時のBAを別個にサンプリングし、その濃度差(C+-C-)が、放出フラックスに比例する(比例係数をbとする)ことを利用し測定する。拡散係数とb値は、顕熱フラックスと気温勾配および鉛直風速が上向き時と下向き時の平均気温差(T+-T-)から推定できる。
これらの手法によりBA放出フラックスが有意に測定可能となる条件は、以下の3つであると考えた。
(条件1)高度とともに、BA濃度が平均的に減少し、昼間気温も一様に低下する高度領域で測定を行うこと。(条件2) 気温勾配測定値が有意かつ顕熱フラックスと有意な相関を示し拡散係数値が推定できること。また、(T+-T-)測定値が有意かつ顕熱フラックスと有意な相関を示し b 値が推定できること。(条件3) ΔCおよび(C+-C-)の測定値が有意であること。
2022 年と2023 年の8-11 月に、福島県浪江町の観測サイト林地に設置したタワー(高さ10.8m)で、BA フラックスの観測を実施し、観測結果から上記の3条件が満たされるか検討した。高度5.5m~12.5mの範囲で気温とBA濃度を測定し、11mで超音波風速計により鉛直風速と顕熱フラックスを測定し、REA法のBAのサンプリングを実施した。

3. 結果・考察
(条件1)BA濃度と昼間気温は 9.8〜12.5mで高度ともに低下した。この高度領域で、本研究のフラックス測定を実施することにした。
(条件2)気温勾配の個別測定値は本研究の観測条件では有意ではなかったが、顕熱フラックスとの回帰分析により、有意な拡散係数を決定することができた。(T+-T-)の測定値は概ね有意であり、顕熱フラックスとの回帰分析により有意なb値が決定できた。
(条件3)BA濃度の誤差低減対策を行った2023年観測では、ΔCおよび(C+-C-)の値はばらつきが大きいものの概ね有意な値が得られた。
 本研究により、樹冠上部のBA濃度と昼間気温が高度とともに減少する高度領域において、十分な精度でΔCおよび(C+-C-)を測定することで傾度法・REA法により、これまでほとんど報告がないBA(真菌胞子)正味放出フラックスの直接測定が可能であることが示された。本研究で得られた値は先行研究で報告されたものと同じ、10²個m⁻²s⁻¹のオーダーで、妥当と考えられる。但し、検出限界を3σ(σは測定値のランダム誤差による標準偏差)で定義すると、誤差が大きいため今回の観測結果はそれ以下であり、さらにBA濃度測定精度に改善が必要である