15:00 〜 15:15
[AAS10-06] ハロウィン太陽プロトンイベントが引き起こす成層圏大気中の化学種濃度変動におけるイオン反応の重要性
キーワード:太陽プロトンイベント、ボックスモデル、イオン反応
太陽プロトンイベントとは、太陽フレアやコロナ質量放出に伴う衝撃波によって、相対論的エネルギーに加速された陽子が地球大気に降り注ぐ現象である。太陽から来る高エネルギー陽子は、地球磁場に沿って極域の成層圏大気に到達する。そして成層圏大気中の窒素分子・酸素分子の電離・解離を引き起こし、オゾン濃度の減少や反応性窒素酸化物濃度の増加といったような、化学種濃度の擾乱を引き起こす。このことは、2003年10月26日から12日間程、高エネルギー陽子が降り注いだ“ハロウィン”太陽プロトンイベントについて、Envisat地球観測衛星に搭載されたMIPAS干渉計による極域の中層大気(成層圏・中間圏)の化学種濃度の観測で実証された(Funke et al., 2011)。また、太陽プロトンイベントが引き起こす極域の低層電離層(D層)の化学種濃度変動を理解するためには、中性反応のみならず、イオン反応を考慮することが重要であることが示された(Verronen et al., 2016; Verronen et al., 2005)。
我々は、太陽プロトンイベントが引き起こす成層圏大気の化学種濃度変動におけるイオン反応の重要性を探るため、90種の化学種からなる 中性反応147、イオン反応605を含む、反応総数752の反応を取り入れたボックスモデルを作成し、ハロウィンイベント後の化学種濃度の時間発展を計算した。本研究では、開発したモデルによる計算結果とMIPASによる観測データ(IMK(カールスルーエ工科大学気象気候研究所)/IAA(アンダルシーア天体物理学研究所)の解析データ)とを比較し、モデルが観測を定性的に説明できるかどうか調べた。さらに、イオン反応を取り入れたシミュレーションと中性反応のみのシミュレーションとを比較し、イオン反応の重要性について考察した。
図1に、ハロウィンイベントが引き起こした、北緯60度から90度の地域を面積加重平均した高度50kmのオゾン濃度の時間発展について、ボックスモデルによる計算結果と観測との比較を示す。イオン反応を取り入れた計算では、オゾン濃度の急激な減少と回復を示し、MIPAS による観測データ(IMK/IAAの解析データ)を定性的に再現できることがわかった。一方、中性反応のみの計算では、観測に見られるようなオゾン濃度の急激な減少と回復を再現しないことがわかった。この結果は、高エネルギー陽子による窒素分子や酸素分子の電離や解離とそれに引き続く反応を介して、次の3つの反応、すなわち1)NO+O3→NO2+O2、2)O3+OH→O2+HO2、3)O3+O2-→O2+O3-の寄与が特に大きくなったことが主な要因である可能性が高いと考えられる。
講演では、ハロウィンイベントが引き起こした反応性窒素酸化物の濃度変動についても議論する。また、他の高度のシミュレーションについても言及する。
参考文献
1) B. Funke , et al., ”Composition changes after the“Halloween”solar proton event: the High Energy Particle Precipitation in the Atmosphere (HEPPA) model versus MIPAS data intercomparison study”, Atmos. Chem. Phys. 11, 9089–9139, 2011.
2) P. T. Verronen , et al., ”WACCM-D - Whole Atmosphere Community Climate Model with D-region ion chemistry”, J. Adv. Model. Earth Syst. 8, 954–975, 2016.
3) P. T. Verronen, et al., “Diurnal variation of ozone depletion during the October-November 2003 solar proton events”, J. Geophys. Res., 110, A09S32, 2005.
我々は、太陽プロトンイベントが引き起こす成層圏大気の化学種濃度変動におけるイオン反応の重要性を探るため、90種の化学種からなる 中性反応147、イオン反応605を含む、反応総数752の反応を取り入れたボックスモデルを作成し、ハロウィンイベント後の化学種濃度の時間発展を計算した。本研究では、開発したモデルによる計算結果とMIPASによる観測データ(IMK(カールスルーエ工科大学気象気候研究所)/IAA(アンダルシーア天体物理学研究所)の解析データ)とを比較し、モデルが観測を定性的に説明できるかどうか調べた。さらに、イオン反応を取り入れたシミュレーションと中性反応のみのシミュレーションとを比較し、イオン反応の重要性について考察した。
図1に、ハロウィンイベントが引き起こした、北緯60度から90度の地域を面積加重平均した高度50kmのオゾン濃度の時間発展について、ボックスモデルによる計算結果と観測との比較を示す。イオン反応を取り入れた計算では、オゾン濃度の急激な減少と回復を示し、MIPAS による観測データ(IMK/IAAの解析データ)を定性的に再現できることがわかった。一方、中性反応のみの計算では、観測に見られるようなオゾン濃度の急激な減少と回復を再現しないことがわかった。この結果は、高エネルギー陽子による窒素分子や酸素分子の電離や解離とそれに引き続く反応を介して、次の3つの反応、すなわち1)NO+O3→NO2+O2、2)O3+OH→O2+HO2、3)O3+O2-→O2+O3-の寄与が特に大きくなったことが主な要因である可能性が高いと考えられる。
講演では、ハロウィンイベントが引き起こした反応性窒素酸化物の濃度変動についても議論する。また、他の高度のシミュレーションについても言及する。
参考文献
1) B. Funke , et al., ”Composition changes after the“Halloween”solar proton event: the High Energy Particle Precipitation in the Atmosphere (HEPPA) model versus MIPAS data intercomparison study”, Atmos. Chem. Phys. 11, 9089–9139, 2011.
2) P. T. Verronen , et al., ”WACCM-D - Whole Atmosphere Community Climate Model with D-region ion chemistry”, J. Adv. Model. Earth Syst. 8, 954–975, 2016.
3) P. T. Verronen, et al., “Diurnal variation of ozone depletion during the October-November 2003 solar proton events”, J. Geophys. Res., 110, A09S32, 2005.

