日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC26] 雪氷学

2024年5月29日(水) 13:45 〜 15:00 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:砂子 宗次朗(防災科学技術研究所)、谷川 朋範(気象庁気象研究所)、大沼 友貴彦(宇宙航空研究開発機構)、渡邊 達也(北見工業大学)、座長:砂子 宗次朗(防災科学技術研究所)

13:45 〜 14:00

[ACC26-01] 深層学習を用いたキルギス・天山山脈における氷河湖マッピング

*山田 奈穂1奈良間 千之1飯田 佑輔1Daiyrov Mirlan1 (1.新潟大学)

キーワード:氷河湖、深層学習、リモートセンシング

1. はじめに
中央アジアのキルギス・天山山脈では,多数の小規模氷河湖の 出水による氷河湖決壊洪水(GLOF)が報告されている(Erokhin et al., 2008, 2017; Daiyrov et al., 2018,2022).同地域ではわずか数ヶ 月で氷河湖の形成・出水を起こす氷河湖の存在が明らかになっ ており(Narama et al.,2010,2018),高い時間分解能,かつ広域で のモニタリングが課題である.現在の氷河湖モニタリングでは 主に,広域での観測が可能なリモートセンシング技術が活用さ れている.この技術を利用した氷河湖認識の課題として,正確な 水域検出の難しさが挙げられる.一般的に水域の自動抽出には 正規化指数などが用いられ,閾値を決定しておこなわれるが,氷 河湖は複雑な山岳地形に囲まれており,影などの自然条件の影響 を受けることから,これまでのルールベースの画像処理技術を 用いた水域同定では閾値決定が難しい.この問題を解決するた めに近年導入されているのが深層学習である(J.E.Ball et al.,2017) . インド・ヒマラヤ地域やグリーンランドの氷河湖のセグメンテ ーションに深層学習が用いられ,高い精度で氷河湖領域の分類 が報告されている(Qayyum et al.,2020;Lutz et al.,2023).しかしこれ らの地域の氷河湖に比べ,対象地域の氷河湖は比較的小規模で あり,氷河湖周辺環境も大きく異なるため,これまでの深層学習 モデルをそのまま適用することで,対象領域において十分な検 出精度を達成することは難しいと考えられる.そこで本研究で は,対象地域の小規模な氷河湖に特化し,高頻度でデータ取得が 可能な光学衛星画像と,深層学習を用い,氷河湖領域の分類を目 的としたモデルを作成した.作成したモデルは,氷河湖領域の実 測値を用いて評価し,対象地域における氷河湖のマッピングを おこなった.
2. 手法
対象地域は,キルギス共和国の天山山脈に位置するキルギス 山脈とテスケイ山脈である.テスケイ山脈のみでも,300 以上の 氷河湖が確認されており(Daiyrov.,et al 2018),直近では2023年 8 月にテスケイ山脈東部でGLOF が発生した. 使用したデータは光学衛星画像PlanetScope である.光学画像 から約1300のデータセットを作成し,うち80%を学習用データ セット,20%を検証データとし,モデルの学習をおこなった.1 つのデータセットは,衛星画像データと氷河湖領域を示した ground truth(GT)の2 つで構成され,画像サイズは256×256 で ある.モデル構造には,画像セグメンテーションの分野で広く使 われるU-Net(Ronneberger et al., 2015)を使用した. モデル精度評価のために,画素単位での評価指標の算出と, UAV により実測された氷河湖面積とモデル予測結果との比較を おこなった.
3. モデル精度の評価と課題
モデルの評価指標は,Accuracy 約 97%,Precision 約85%, Recall 約80%であった.学習したモデルによる氷河湖領域の予 測結果を図1に示す.どの氷河湖においても高い数値が得ら れ,可視化した予測結果も氷河湖領域が正確に検出されていた ことから,氷河湖領域の検出精度はおおむね良好であった. Precision に比べRecall が小さいことから,地表面の水面への誤 認識よりも,氷河湖領域の見逃しが起こっていることが分かっ た.作成したデータセット内の氷河湖領域は画像全体の3%ほ どであったため,モデルの学習時に与えた氷河湖領域が少ない ことによるデータラベル数の不均衡が,この原因として考えら れる.今後の課題として,損失関数の重みづけなどのデータイ ンバランスの解消によって,氷河湖領域の見逃しを減少させる ことでモデル精度の向上が期待できる.