日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC26] 雪氷学

2024年5月29日(水) 15:30 〜 16:45 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:砂子 宗次朗(防災科学技術研究所)、谷川 朋範(気象庁気象研究所)、大沼 友貴彦(宇宙航空研究開発機構)、渡邊 達也(北見工業大学)、座長:大沼 友貴彦(宇宙航空研究開発機構)

16:15 〜 16:30

[ACC26-09] 光学的測定装置による雪粒径の測定精度、限界、改善法

*青木 輝夫1八久保 晶弘2西村 基志1谷川 朋範3 (1.国立極地研究所、2.北見工業大学、3.気象庁・気象研究所)

キーワード:積雪粒径、比表面積、HISSGraS、IceCube、ガス吸着法

積雪粒径と比表面積(質量または体積に対する表面積の割合, SSA)は、雪面のアルベドを支配し、積雪変態の進行を記述する非常に重要な微物理量である。これらの物理量の野外測定は、IceCube(A2 photonics、フランス)(Gallet et al., 2009)のような光学機器を使って行われることが多い。しかし、積雪の衛星リモートセンシング検証のための多点計測などに利用するには、重量と測定時間が大き過ぎる。最近、我々はサンプリングカップで採取した雪試料だけでなく、雪面や積雪断面にも直接適用できる可搬型積分球積雪粒径測定装置(HISSGraS)を開発した(Aoki et al., 2023)。HISSGraSとIceCubeの精度を評価するため、温度制御された条件下で、これらの装置を用いて、さまざまな種類の自然積雪と人工氷球のSSAを測定した。それらの結果を標準測器としてガス吸着法(Brunauer-Emmett-Teller:BET法)による測定値と比較した。本測定は北見工業大学の室温(Ta)-20℃の低温実験室で実施した。測定された積雪形状は、降雪後数日から1ヶ月間にTa = -50℃に保存された新雪(PP)、1ヶ月の間にTa = -30℃に保存された同じPP、大きさの異なる人工氷球粒子からなり、積雪サンプル数は合計35個である。BET法で測定した全積雪試料のSSAの範囲は、4.5~82.8 m2kg-1(平均値51.5 m2kg-1)であった。HISSGraSで測定したSSAは、IceCubeによるSSAとよく一致した(決定係数R2 = 0.98)。一方、HISSGraS(IceCube)で測定したSSAは、BET法によるSSAと統計的に有意に相関したが(R2 = 0.80 (0.85))、SSA > 60 m2kg-1の範囲では大きく過小評価した。この過小評価は、積雪密度が低く、小粒径のために光吸収が少ない測定対象のPP中で、光学装置の光源から射出された光子が損失したことが原因の可能性がある。そこで、積雪密度160 kg m-3以下のPP試料に対するSSA測定値を除くと、HISSGraS (IceCube)とBET法の相関は、R2 = 0.86 (0.87)に改善された。低密度のPPに対する光学的測定装置によるSSAの精度を向上させるために、5つのPPサンプルを人工的に2.7倍高い積雪密度に圧縮した。それらのSSAをHISSGraSとIceCubeで測定し、BET法による結果を比較した。その結果、低密度PPでは大きく過小評価されていたHISSGraSとIceCubeによるSSAは、BET法による非圧縮積雪サンプルのSSAより10%の低い値まで増加したのに対し、BET法で求めたSSAは圧縮前とほとんど変わらなかった。これらの結果から、低密度の新雪のSSAを光学的測定装置で測定する場合、圧密して測定することにより、測定精度を約10%の過小評価にまで改善できることが分かった。