17:15 〜 18:45
[ACC26-P06] 天山山脈北部地域における短命氷河湖の形成要因
キーワード:短命氷河湖、氷河湖決壊洪水、天山山脈、アイストンネル
1,はじめに
中央アジアのキルギス共和国に位置するテスケイ山脈では小規模な氷河湖が多数分布する(Daiyrov et al., 2020,2022).2000年以降,これら小規模な氷河湖で決壊洪水が多発しており,下流域では大きな被害が生じている.2008年7月には,テスケイ山脈の西ズンダン氷河湖で決壊洪水が発生し, 3名の犠牲者と道路や橋などのインフラ,農地が壊滅的な被害を受けた(Narama et al., 2010) .氷河湖決壊洪水を起こす湖は, 「短命氷河湖」と呼ばれ,わずか数ヶ月~数年間で氷河湖が出現して,出水する.この地域では氷河湖前面に埋没氷を含む岩屑地形(モレーンコンプレックス)が形成されており(Shatravin,2007),氷河湖の排水はこの地形内部に発達したアイストンネルを通っておこなわれる.このトンネルが冬期の凍結や土砂崩落で閉塞することで春~夏の融解水が堰き止められ短命氷河湖が形成される.短命氷河湖の形成には,「トンネル閉鎖型」と「融解量増加型」があり,現地観測によりこれらタイプの氷河湖形成のメカニズムは十分検討されていない.そこで本研究では,毎年7~8月に出現する「融解量増加型」の短命氷河湖に着目し,観測データから氷河湖形成のメカニズムについて検討した.
2,地域概要
研究地域は,中央アジアのキルギス共和国に位置するテスケイ山脈のコルムドゥ氷河湖である.コルムドゥ氷河湖は,2015年以降ほぼ毎年7~8月に出現する短命氷河湖である.
3.研究手法
コルムドゥ氷河湖の貯留量変化(体積変化)を明らかにするため, UAV空撮画像から作成したDSMを用いて,毎日の氷河湖の体積変化を求めた.また,観測できなかった年は衛星画像のPlanetScope(解像度3m)から求めた面積変化とDSMから体積変化を算出した.
・DD法による氷河融解量の算出
氷河湖と接する氷河の融解量(湖への流入量)を算出するため,ディグリー・デー法を用いた.使用した気温データは,氷河末端部において1時間間隔で観測した.さらにディグリー・デー係数(DDF)を算出するため,融解深の計測をおこなった.
4. 結果
2023年の氷河融解量と氷河湖体積(貯留量)の変動結果は気温が0℃を大きく上回る6月上旬から融解量は増加する.氷河湖が拡大した後,8月8日から氷河湖体積は減少しはじめ,8月下旬には氷河湖は完全に消滅した.氷河湖の形成と消滅はそれぞれ3週間ほどであった. 湖が出現した2020年以外の年において,湖の出現時期は7月~8月中旬であったが,湖の最大体積は年によって異なっていた.
5.考察
氷河の融解量(湖への流入量),氷河湖の貯留量,氷河湖からの流出量の変動を調べた結果,流入量が排水量を上回る際に氷河湖が形成されはじめることを確認した.氷河湖が拡大を続けるタイミングの排出量を用いて氷河湖の貯留量を求めたところ,2017年の急激な氷河湖体積変動と一致しない結果であった.これは氷河湖の形成が氷河融解量の増加だけでなく,トンネルの閉鎖による排水量の減少も関与している可能性を示唆する.
中央アジアのキルギス共和国に位置するテスケイ山脈では小規模な氷河湖が多数分布する(Daiyrov et al., 2020,2022).2000年以降,これら小規模な氷河湖で決壊洪水が多発しており,下流域では大きな被害が生じている.2008年7月には,テスケイ山脈の西ズンダン氷河湖で決壊洪水が発生し, 3名の犠牲者と道路や橋などのインフラ,農地が壊滅的な被害を受けた(Narama et al., 2010) .氷河湖決壊洪水を起こす湖は, 「短命氷河湖」と呼ばれ,わずか数ヶ月~数年間で氷河湖が出現して,出水する.この地域では氷河湖前面に埋没氷を含む岩屑地形(モレーンコンプレックス)が形成されており(Shatravin,2007),氷河湖の排水はこの地形内部に発達したアイストンネルを通っておこなわれる.このトンネルが冬期の凍結や土砂崩落で閉塞することで春~夏の融解水が堰き止められ短命氷河湖が形成される.短命氷河湖の形成には,「トンネル閉鎖型」と「融解量増加型」があり,現地観測によりこれらタイプの氷河湖形成のメカニズムは十分検討されていない.そこで本研究では,毎年7~8月に出現する「融解量増加型」の短命氷河湖に着目し,観測データから氷河湖形成のメカニズムについて検討した.
2,地域概要
研究地域は,中央アジアのキルギス共和国に位置するテスケイ山脈のコルムドゥ氷河湖である.コルムドゥ氷河湖は,2015年以降ほぼ毎年7~8月に出現する短命氷河湖である.
3.研究手法
コルムドゥ氷河湖の貯留量変化(体積変化)を明らかにするため, UAV空撮画像から作成したDSMを用いて,毎日の氷河湖の体積変化を求めた.また,観測できなかった年は衛星画像のPlanetScope(解像度3m)から求めた面積変化とDSMから体積変化を算出した.
・DD法による氷河融解量の算出
氷河湖と接する氷河の融解量(湖への流入量)を算出するため,ディグリー・デー法を用いた.使用した気温データは,氷河末端部において1時間間隔で観測した.さらにディグリー・デー係数(DDF)を算出するため,融解深の計測をおこなった.
4. 結果
2023年の氷河融解量と氷河湖体積(貯留量)の変動結果は気温が0℃を大きく上回る6月上旬から融解量は増加する.氷河湖が拡大した後,8月8日から氷河湖体積は減少しはじめ,8月下旬には氷河湖は完全に消滅した.氷河湖の形成と消滅はそれぞれ3週間ほどであった. 湖が出現した2020年以外の年において,湖の出現時期は7月~8月中旬であったが,湖の最大体積は年によって異なっていた.
5.考察
氷河の融解量(湖への流入量),氷河湖の貯留量,氷河湖からの流出量の変動を調べた結果,流入量が排水量を上回る際に氷河湖が形成されはじめることを確認した.氷河湖が拡大を続けるタイミングの排出量を用いて氷河湖の貯留量を求めたところ,2017年の急激な氷河湖体積変動と一致しない結果であった.これは氷河湖の形成が氷河融解量の増加だけでなく,トンネルの閉鎖による排水量の減少も関与している可能性を示唆する.