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[ACG39-07] 宮城県志津川湾における海洋酸性化・貧酸素化の発生とそれに寄与する有機物の起源推定

キーワード:海洋酸性化、貧酸素化、沿岸域、安定炭素同位体比、カキ養殖
現在、海洋では大気中の二酸化炭素(CO₂)濃度の増加による温暖化、海洋酸性化、貧酸素化が問題視されている(IPCC, 2021)。さらに沿岸域では、陸域からや沿岸の過剰利用などから負荷される栄養塩や有機物が分解されることよってもたらされる局所的な酸性化や貧酸素化も懸念される(Cai et al., 2011; Yamamoto-Kawai et al., 2021)。そこで本研究では国内沿岸での酸性化・貧酸素化の現状の把握およびそれらをもたらしている要因解明を目的に、宮城県志津川湾にて調査を行った。本湾は豊かな漁場として知られ、カキやワカメ、ギンザケ等の養殖が盛んに行われている海域となっている。
湾内で特にカキ養殖が多く行われている2点(戸倉A, B)を設定し、2018年にロガー式センサーを表層と底層に設置して水温、塩分、pH、溶存酸素(DO)の連続観測を行った。さらに2021年11月から2022年12月の間異なる季節にて計5回、湾内14地点での水温、塩分、pH、DO、Chl-a濃度を直読式多項目水質計により鉛直的測定を行った。2023年7月にはさらに9地点を加えた観測を行った。また2022年及び2023年の夏季には各地点から表層と底層で採水し総アルカリ度(TA)、 溶存無機炭素(DIC)、栄養塩、18O、δ13CDIC、粒子状有機炭素濃度(POC)そしてδ13CPOCの分析を行った。加えて2023年には湾内に流入する主要な6河川で採水した。酸性化・貧酸素化の要因の評価には各地点での有機物の起源を外洋および河川の水をエンドメンバーとして混合モデルにより推定を行った。
連続観測の結果、戸倉B底層では2020年以降、DOと pHに強い相関が見られ、2021年、2022年の夏には底層域でDO2.0㎎/Lを下回る貧酸素海水とpH7.7を下回る酸性海水が観測された。戸倉Aでも同様に特に2022年の夏に底層で貧酸素化と酸性化した海水が同時に見られた。その際表層では発達した水温および塩分躍層が見られたことから、鉛直混合の妨げにより、躍層下での生物の呼吸や有機物の分解による酸素の消費とCO2の排出によって海水のDO、pHが低下したと考えられる。また特に湾の南部において特にDOとpHが低下する傾向が確認された。流動モデルから本湾南部にある椿島に海流がぶつかることによって流速が低下することで水塊が停滞し、特に南部の底層に有機物が堆積しやすい可能性が示唆された。またδ13CPOC値は湾の東西で異なっており、これら海水中で分解された有機物のδ13Cは西側で-27.1‰、東側で-20.7‰であると推定された。西側の観測点近くで養殖されているギンザケの飼料に利用されている米や小麦のδ13Cは約⁻27.0~-26.0‰であることから、これに由来する有機物が西側底層での貧酸素化発生に関与していた可能性が考えられる。一方で志津川湾にて採取したマガキの排泄物中のδ13Cは-20.8‰であったことから東側では主に養殖マガキによる沈降有機物が貧酸素水塊形成に影響を与えていた可能性が考えられる。
本研究の結果から志津川湾では現在すでに今世紀末に予測されているレベルの酸性化、貧酸素化水塊が夏季に特に湾南部の底層にて引き起こされていることが明らかとなった。さらにこれにはマガキとギンザケ2種類の養殖に由来する有機物の分解に伴う酸素消費および二酸化炭素の排出が寄与している可能性が考えられた。またこれら酸性化、貧酸素化水塊の形成場所には湾内の海水の流動特性が大きく影響している可能性が示唆された。
湾内で特にカキ養殖が多く行われている2点(戸倉A, B)を設定し、2018年にロガー式センサーを表層と底層に設置して水温、塩分、pH、溶存酸素(DO)の連続観測を行った。さらに2021年11月から2022年12月の間異なる季節にて計5回、湾内14地点での水温、塩分、pH、DO、Chl-a濃度を直読式多項目水質計により鉛直的測定を行った。2023年7月にはさらに9地点を加えた観測を行った。また2022年及び2023年の夏季には各地点から表層と底層で採水し総アルカリ度(TA)、 溶存無機炭素(DIC)、栄養塩、18O、δ13CDIC、粒子状有機炭素濃度(POC)そしてδ13CPOCの分析を行った。加えて2023年には湾内に流入する主要な6河川で採水した。酸性化・貧酸素化の要因の評価には各地点での有機物の起源を外洋および河川の水をエンドメンバーとして混合モデルにより推定を行った。
連続観測の結果、戸倉B底層では2020年以降、DOと pHに強い相関が見られ、2021年、2022年の夏には底層域でDO2.0㎎/Lを下回る貧酸素海水とpH7.7を下回る酸性海水が観測された。戸倉Aでも同様に特に2022年の夏に底層で貧酸素化と酸性化した海水が同時に見られた。その際表層では発達した水温および塩分躍層が見られたことから、鉛直混合の妨げにより、躍層下での生物の呼吸や有機物の分解による酸素の消費とCO2の排出によって海水のDO、pHが低下したと考えられる。また特に湾の南部において特にDOとpHが低下する傾向が確認された。流動モデルから本湾南部にある椿島に海流がぶつかることによって流速が低下することで水塊が停滞し、特に南部の底層に有機物が堆積しやすい可能性が示唆された。またδ13CPOC値は湾の東西で異なっており、これら海水中で分解された有機物のδ13Cは西側で-27.1‰、東側で-20.7‰であると推定された。西側の観測点近くで養殖されているギンザケの飼料に利用されている米や小麦のδ13Cは約⁻27.0~-26.0‰であることから、これに由来する有機物が西側底層での貧酸素化発生に関与していた可能性が考えられる。一方で志津川湾にて採取したマガキの排泄物中のδ13Cは-20.8‰であったことから東側では主に養殖マガキによる沈降有機物が貧酸素水塊形成に影響を与えていた可能性が考えられる。
本研究の結果から志津川湾では現在すでに今世紀末に予測されているレベルの酸性化、貧酸素化水塊が夏季に特に湾南部の底層にて引き起こされていることが明らかとなった。さらにこれにはマガキとギンザケ2種類の養殖に由来する有機物の分解に伴う酸素消費および二酸化炭素の排出が寄与している可能性が考えられた。またこれら酸性化、貧酸素化水塊の形成場所には湾内の海水の流動特性が大きく影響している可能性が示唆された。