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[ACG39-08] 八代海の赤潮拡大期における主要な栄養塩供給源の解明
キーワード:赤潮、栄養塩、八代海、Karenia mikimotoi
九州西部に位置する八代海は,九州本土や天草諸島などに囲まれる閉鎖的な内湾であり,北部海域は一級河川である球磨川の影響を受けるとともに,南部海域は牛深長島海峡と黒瀬戸海峡から流入する対馬暖流由来の外海水の影響も受けている.八代海においては特に漁類養殖が産業としては重要であり,漁業被害を引き起こす植物プランクトンの増殖生態や発生予察が進められてきた.赤潮プランクトンの発生や維持機構を解明するためには低次生態系における生物過程と物理過程の双方を考慮した生態系モデル開発の必要性が指摘されている.しかし,八代海においては生態系モデルを構築する上で必要不可欠な栄養塩動態に関する知見が限られている.
本研究では,2015年から2017年にかけて,八代海において発生したKarenia mikimotoi赤潮の拡大過程における栄養塩の供給源を明らかにすることを目的とした。解析の手順としては,まず,流量とK. mikimotoi細胞数の推移およびTSダイアグラムより,同一と見なせる期間を定義した。次に,それぞれの期間において球磨川の横石観測所における水温と溶存無機態窒素(DIN)濃度を取得した(国土交通省 水質水文データベースhttp://www1.river.go.jp/)。各期間において河川水に加えて,表層水(高塩分かつ高水温:主に南部海域の沿岸部)と底層水(最低水温:主に南部海域の代表点周辺の40 m以深)をエンドメンバーとして定義した。本研究ではこれらの結果を用いて、赤潮拡大期における栄養塩の供給過程を考察する.
河川流量はそれぞれの年において最大で2017年の約1,250 m3 s–1から2016年の約2,500 m3 s–1の範囲であった。K. mikimotoiは2015年7月に最大値となる約150,000 cells ml–1に達し,出水から1ヶ月経過した8月になっても50,000 cells ml–1に達する高密度なパッチを形成した。2015年は,K. mikimotoi赤潮が八代海西部で発生し,風の影響を受けて八代海中央部へと広がったことが報告されている(Aoki et al. 2023)。2014年には流量が中程度であったもののK. mikimotoiの赤潮が発生せず,2017年には流量が最低であったが最大細胞数は20,000 cells ml–1を上回るように,単純に規模やタイミングに合わせてK. mikimotoiの赤潮が発生しないことが分かる。
K. mikimotoiの細胞数が長期間にわたって高密度を維持していた2015年において、6月の出水後,表層塩分は約1ヶ月間に渡って28を下回った。これに呼応するように,表層から水深15 mにかけてクロロフィルa濃度が10 µg L–1を超える濃度上昇が確認された。その後,クロロフィルa濃度が低下する頃にK. mikimotoi細胞数は急上昇し,8月下旬まで高い細胞数密度を維持した。実測DIN濃度は表層から10 mまでは多くの期間において2 µMを下回っていたが,7月下旬と8月下旬には水深10 mでも4 µMを上回っていた。ミキシングモデルによる計算結果によると,八代海南部海域に対する河川由来DINの影響はごく表層に限られており,その濃度は最大でも3 µM程度であり,8月下旬から9月上旬の短期間のみであった。一方,底層由来DINについては多くの期間において水深5 mでさえも2 µM,水深10 mでは多くの期間において3–4 µMと高濃度であった。K. mikimotoiの日周鉛直移動が最大で20 mに達することを踏まえると(Shikata et al. 2017),底層由来DINは風によって広がったK. mikimotoiの維持に対して重要な役割を担う可能性が高いと言える。また,実測DIN濃度と供給DIN濃度の差し引きより見積もったN取り込み量は水深10–20 mで高く,2–4 µMに達した。ただし,このような底層水由来の高濃度なDINは2015年だけではなく,その他の年においても確認されている。このことは,赤潮が発生した時に底層由来DIN濃度が高かったことを意味するだけであり,底層由来DINが高い時に赤潮が大規模化するわけでは無い点には注意が必要である。今後の課題として,底層由来DINが赤潮の維持・拡大に対して与える影響を定量的に評価する必要がある。
引用文献
Aoki K, Sugimatsu K, Yoshimura N, Kuroki Y, Nakashima H, Hoshina K, Ura K. Dynamics of a fish-killing dinoflagellate Karenia mikimotoi red-tide captured by composite data sources. Mar. Poll. Bull; 2023: 195, 115472.
Shikata T, Onitsuka G, Abe K, Kitatsuji S, Yufu K, Yoshikawa Y, Honjo T, Miyamura K. Relationships between light environment and subsurface accumulation during the daytime in the red-tide dinoflagellate Karenia mikimotoi. Mar. biol. 2017; 164: 1-12.
本研究では,2015年から2017年にかけて,八代海において発生したKarenia mikimotoi赤潮の拡大過程における栄養塩の供給源を明らかにすることを目的とした。解析の手順としては,まず,流量とK. mikimotoi細胞数の推移およびTSダイアグラムより,同一と見なせる期間を定義した。次に,それぞれの期間において球磨川の横石観測所における水温と溶存無機態窒素(DIN)濃度を取得した(国土交通省 水質水文データベースhttp://www1.river.go.jp/)。各期間において河川水に加えて,表層水(高塩分かつ高水温:主に南部海域の沿岸部)と底層水(最低水温:主に南部海域の代表点周辺の40 m以深)をエンドメンバーとして定義した。本研究ではこれらの結果を用いて、赤潮拡大期における栄養塩の供給過程を考察する.
河川流量はそれぞれの年において最大で2017年の約1,250 m3 s–1から2016年の約2,500 m3 s–1の範囲であった。K. mikimotoiは2015年7月に最大値となる約150,000 cells ml–1に達し,出水から1ヶ月経過した8月になっても50,000 cells ml–1に達する高密度なパッチを形成した。2015年は,K. mikimotoi赤潮が八代海西部で発生し,風の影響を受けて八代海中央部へと広がったことが報告されている(Aoki et al. 2023)。2014年には流量が中程度であったもののK. mikimotoiの赤潮が発生せず,2017年には流量が最低であったが最大細胞数は20,000 cells ml–1を上回るように,単純に規模やタイミングに合わせてK. mikimotoiの赤潮が発生しないことが分かる。
K. mikimotoiの細胞数が長期間にわたって高密度を維持していた2015年において、6月の出水後,表層塩分は約1ヶ月間に渡って28を下回った。これに呼応するように,表層から水深15 mにかけてクロロフィルa濃度が10 µg L–1を超える濃度上昇が確認された。その後,クロロフィルa濃度が低下する頃にK. mikimotoi細胞数は急上昇し,8月下旬まで高い細胞数密度を維持した。実測DIN濃度は表層から10 mまでは多くの期間において2 µMを下回っていたが,7月下旬と8月下旬には水深10 mでも4 µMを上回っていた。ミキシングモデルによる計算結果によると,八代海南部海域に対する河川由来DINの影響はごく表層に限られており,その濃度は最大でも3 µM程度であり,8月下旬から9月上旬の短期間のみであった。一方,底層由来DINについては多くの期間において水深5 mでさえも2 µM,水深10 mでは多くの期間において3–4 µMと高濃度であった。K. mikimotoiの日周鉛直移動が最大で20 mに達することを踏まえると(Shikata et al. 2017),底層由来DINは風によって広がったK. mikimotoiの維持に対して重要な役割を担う可能性が高いと言える。また,実測DIN濃度と供給DIN濃度の差し引きより見積もったN取り込み量は水深10–20 mで高く,2–4 µMに達した。ただし,このような底層水由来の高濃度なDINは2015年だけではなく,その他の年においても確認されている。このことは,赤潮が発生した時に底層由来DIN濃度が高かったことを意味するだけであり,底層由来DINが高い時に赤潮が大規模化するわけでは無い点には注意が必要である。今後の課題として,底層由来DINが赤潮の維持・拡大に対して与える影響を定量的に評価する必要がある。
引用文献
Aoki K, Sugimatsu K, Yoshimura N, Kuroki Y, Nakashima H, Hoshina K, Ura K. Dynamics of a fish-killing dinoflagellate Karenia mikimotoi red-tide captured by composite data sources. Mar. Poll. Bull; 2023: 195, 115472.
Shikata T, Onitsuka G, Abe K, Kitatsuji S, Yufu K, Yoshikawa Y, Honjo T, Miyamura K. Relationships between light environment and subsurface accumulation during the daytime in the red-tide dinoflagellate Karenia mikimotoi. Mar. biol. 2017; 164: 1-12.