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[ACG39-09] 河口干潟における底生微細藻類と植物プラクトンの長期間の基礎生産量と潮汐周期の関係
キーワード:干潟、基礎生産量、係留系、潮汐周期
はじめに
干潟の生態系サービスとして,微細藻類による調整機能が高く評価されている.しかし,干潟の面積は年間0.55%ずつ減少しており,干潟の生態系サービスが人間活動により脅かされている(Murray et al.,2019).干潟の多面的機能の根幹を担う基礎生産者の動態を解明することは,干潟を保全する上で重要な知見となる.
干潟は干出時に堆積物表層が強光に曝される.また,河川から栄養塩が供給されるとともに,凝集作用により浮泥が形成され,再懸濁することで高濁度となる.したがって,干潟は高い栄養塩濃度と高い濁度のため,一般に微細藻類の光合成は光合成有効放射(PAR)の量により制限されうる(Kromkamp et al.,1995).水中を透過する光は水質により減衰率が異なるため,波の作用により海底に到達するPARは大きく変動する.したがって,潮汐の水深の変動に伴い,基礎生産量が変化すると考えられる.しかし,干潟で植物プランクトンと底生微細藻類の基礎生産量を同時に定量した研究は少なく,潮汐の変動を加味した定量方法は皆無である(Frankenbach et al.,2021).そこで,本研究は2021年 10月から2022年11月の有明海に面する緑川河口域を対象に基礎生産培養実験と係留系による調査を行い,現場の基礎生産量を高い時間解像度で長期間(−1年間)推定する.推定した基礎生産量の変動要因について考察することを目的とした.
材料と方法
緑川河口干潟の砂底である2地点で,2021 年10月から2022年11月にかけて1ヶ月に1回,多項目水質計で水質を測定し,表層水,表層堆積物(1cm)試料を採取した.水試料はクロロフィルa(Chl-a)濃度,溶存無機炭素を測定し,堆積物試料は含水率,Chl-a含量を測定した.また,野外に係留系を設置し,海底直上のPAR,Chl-a濃度,水深,水温を測定した.海面のPARとして,熊本県立大学の屋上でPARを測定し,AAQにより補正した.係留系の各パラメータは多項目水質計による同時刻のCTDデータで校正した.基礎生産量の培養実験は,最大光量を干出時の光量(約2000μmol m−2 s−1)とし,5段階の光条件とした.植物プランクトンは培養瓶に水試料を,底生微細藻類は堆積物試料を添加し,濾過海水で満たした後,NaH13CO3溶液を添加して培養した.試料中の13C濃度から算出した基礎生産量を出力変数に,培養時のPAR,水温,塩分,Chl-a濃度および含量,採取地点を入力変数としたランダムフォレスト(RF)回帰モデルを構築した.RFモデルに係留系の各パラメータを入力することで,現場の水柱と堆積物の基礎生産量を算出した.
結果と考察
2021年10月から2022年2月上旬までは水柱と堆積物の両方の基礎生産量は低下し,2022年1月の基礎生産量の平均値は年間の最低値を記録した(水柱:58 mgC m−2 d−1,堆積:48 mgC m−2 d−1).水柱の最低水温は6℃であったが,堆積物の表面温度は干出時に−1℃まで低下しており,堆積物の基礎生産は低温度の影響を受けていたと考えられる.2022年2月になると,水柱の基礎生産量が増加する傾向が示され,2月と3月の水柱の基礎生産量の平均値はそれぞれ236 mgC m−2 d−1と184 mgC m−2 d−1に達した.一方,堆積物の基礎生産量は4月までは比較的横ばいであったが,水柱の基礎生産量と入れ替わるように4月から5月にかけて増加し,4月の堆積物の基礎生産量の平均値は223 mgC m−2 d−1に達し,堆積物の年間の基礎生産量において最も高い値を示した.堆積物の基礎生産量の増加は水柱の基礎生産量の急激な増加の後に発生しており,堆積物の基礎生産は水柱の基礎生産によって制限されていたことが示唆された.
干潟の生態系サービスとして,微細藻類による調整機能が高く評価されている.しかし,干潟の面積は年間0.55%ずつ減少しており,干潟の生態系サービスが人間活動により脅かされている(Murray et al.,2019).干潟の多面的機能の根幹を担う基礎生産者の動態を解明することは,干潟を保全する上で重要な知見となる.
干潟は干出時に堆積物表層が強光に曝される.また,河川から栄養塩が供給されるとともに,凝集作用により浮泥が形成され,再懸濁することで高濁度となる.したがって,干潟は高い栄養塩濃度と高い濁度のため,一般に微細藻類の光合成は光合成有効放射(PAR)の量により制限されうる(Kromkamp et al.,1995).水中を透過する光は水質により減衰率が異なるため,波の作用により海底に到達するPARは大きく変動する.したがって,潮汐の水深の変動に伴い,基礎生産量が変化すると考えられる.しかし,干潟で植物プランクトンと底生微細藻類の基礎生産量を同時に定量した研究は少なく,潮汐の変動を加味した定量方法は皆無である(Frankenbach et al.,2021).そこで,本研究は2021年 10月から2022年11月の有明海に面する緑川河口域を対象に基礎生産培養実験と係留系による調査を行い,現場の基礎生産量を高い時間解像度で長期間(−1年間)推定する.推定した基礎生産量の変動要因について考察することを目的とした.
材料と方法
緑川河口干潟の砂底である2地点で,2021 年10月から2022年11月にかけて1ヶ月に1回,多項目水質計で水質を測定し,表層水,表層堆積物(1cm)試料を採取した.水試料はクロロフィルa(Chl-a)濃度,溶存無機炭素を測定し,堆積物試料は含水率,Chl-a含量を測定した.また,野外に係留系を設置し,海底直上のPAR,Chl-a濃度,水深,水温を測定した.海面のPARとして,熊本県立大学の屋上でPARを測定し,AAQにより補正した.係留系の各パラメータは多項目水質計による同時刻のCTDデータで校正した.基礎生産量の培養実験は,最大光量を干出時の光量(約2000μmol m−2 s−1)とし,5段階の光条件とした.植物プランクトンは培養瓶に水試料を,底生微細藻類は堆積物試料を添加し,濾過海水で満たした後,NaH13CO3溶液を添加して培養した.試料中の13C濃度から算出した基礎生産量を出力変数に,培養時のPAR,水温,塩分,Chl-a濃度および含量,採取地点を入力変数としたランダムフォレスト(RF)回帰モデルを構築した.RFモデルに係留系の各パラメータを入力することで,現場の水柱と堆積物の基礎生産量を算出した.
結果と考察
2021年10月から2022年2月上旬までは水柱と堆積物の両方の基礎生産量は低下し,2022年1月の基礎生産量の平均値は年間の最低値を記録した(水柱:58 mgC m−2 d−1,堆積:48 mgC m−2 d−1).水柱の最低水温は6℃であったが,堆積物の表面温度は干出時に−1℃まで低下しており,堆積物の基礎生産は低温度の影響を受けていたと考えられる.2022年2月になると,水柱の基礎生産量が増加する傾向が示され,2月と3月の水柱の基礎生産量の平均値はそれぞれ236 mgC m−2 d−1と184 mgC m−2 d−1に達した.一方,堆積物の基礎生産量は4月までは比較的横ばいであったが,水柱の基礎生産量と入れ替わるように4月から5月にかけて増加し,4月の堆積物の基礎生産量の平均値は223 mgC m−2 d−1に達し,堆積物の年間の基礎生産量において最も高い値を示した.堆積物の基礎生産量の増加は水柱の基礎生産量の急激な増加の後に発生しており,堆積物の基礎生産は水柱の基礎生産によって制限されていたことが示唆された.