日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG39] 沿岸海洋生態系-1.水循環と陸海相互作用

2024年5月29日(水) 10:45 〜 12:00 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小森田 智大(熊本県立大学環境共生学部)、山田 誠(龍谷大学経済学部)、杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、藤井 賢彦(東京大学大気海洋研究所)、座長:小森田 智大(熊本県立大学環境共生学部)、山田 誠(龍谷大学経済学部)、藤井 賢彦(東京大学大気海洋研究所)、杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)

11:45 〜 12:00

[ACG39-10] 干潟に飛来するカモ類がアサリに与える影響:カモ類の水深への応答による検討

*本田 陸斗1小森田 智大1尾崎 竜也1山下 奈々1、山北 剛久2 (1.熊本県立大学、2.海洋開発研究機構)

キーワード:有明海、渡り鳥、アサリ、干潟

はじめに
マガモ(Anas platyrhynchos)を含むカモ類は,北半球のほぼ全域に生息する鳥類であり,越冬地と繁殖地を別々に持つ渡り鳥である.また越冬地においてその行動半径は約7 km にも及ぶ.沿岸域に出現するカモ類は陸と海の両方を活動域としており,なおかつ雑食で漁獲対象である二枚貝類や農作物などを捕食する.この行動範囲の広さと食性により,陸と海の両方で食害種として駆除対象とされている.カモ類の食害についての調査は胃内容物や行動観察,同位体測定,現場観測,試算に基づいて行われてきたものの,特定のベントス個体群への捕食圧は評価できていなかった.カモ類の活動によって無脊椎動物の長距離拡散が促進されることなど,沿岸域の生態系を構成する重要な種であることも示唆されていることから,食害の防除とカモ類の保全の両立のためにも,カモ類の食害の影響を定量的に評価することが必要である.また,カモ類は採餌の方法に基づいて陸ガモと海ガモに分けられる.本研究域である緑川河口干潟に飛来するカモ類は陸ガモが中心であり,体構造などの関係で潜水が苦手である.本干潟は潮位差が最大で5 m にも及ぶことから,本研究域に出現するカモ類の活動は潮汐に伴う短期的な水深の変動に影響を受けている可能性が高く,水深とカモ類の活動の関係を解明する必要がある.

研究方法
本研究では2022年10月から2023年5月の間,熊本県緑川河口干潟において,カモ類のアサリに対する影響を捕食防止実験により評価した。さらに,定点カメラによる撮影の結果と水深の測定結果から水深とカモの活動の関係を調査し,一日にカモが活動できる時間を推定した.

結果と考察
カモ類が多く飛来していた2022年12月から2023年4月において捕食を防止してもアサリ個体数に影響がないことから,カモのアサリに対する捕食圧は小さいことが分かった.また定点カメラを用いて推定したカモの活動時間は一日当たり約677秒であった.本研究域における1日当たりの推定活動時間の平均値である約677秒を用いてカモ一個体が捕食可能なアサリ個体数を推定すると,1日に44個体,滞在期間(約5か月)で約6,600個体となる.本研究域で撮影したカモ群集のパッチ密度が0.036±0.04 inds m-2であったことを踏まえてカモの密度で捕食個体数を補正すると,5か月間における単位面積当たりのカモのアサリ捕食数は237.6 inds m-2となる.調査期間を通して,本研究域におけるアサリ密度は10,000 inds m-2 前後であるため,カモ類による単位面積当たりの捕食量は3%に満たないことが分かる.さらに,滞在時間の全てを捕食に費やすと仮定していること,全ての採餌行動が成功すると仮定していること,またすべての採餌でアサリを捕食すると仮定していることから,本試算ではカモの捕食量を過大評価している可能性が高い.このことからも,本研究域においてカモの捕食がアサリ個体群に与える影響は小さいと考えられる.