日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG39] 沿岸海洋生態系-1.水循環と陸海相互作用

2024年5月29日(水) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:小森田 智大(熊本県立大学環境共生学部)、山田 誠(龍谷大学経済学部)、杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、藤井 賢彦(東京大学大気海洋研究所)

17:15 〜 18:45

[ACG39-P03] 札幌市小河川におけるサクラマス(Oncorhynchus masou)遡上数変化と魚道改良

*布川 雅典1、三浦 敦禎2、佐藤 裕介2権田 豊3梶原 瑠美子1 (1.国立研究開発法人土木研究所 寒地土木研究所、2.北海道開発局 札幌河川事務所、3.新潟大学 農学部)

キーワード:都市河川、簡易魚道、産卵行動、遺骸による栄養塩

サケ科魚類の産卵後遺骸は水生昆虫や動物の餌をはじめとして河川生態系の栄養源となることが知られている。札幌市を流れる精進川では1998年からサクラマス稚魚の放流が行われており、いまでは産卵期には遡上個体が確認できる。さらには産卵後の遺骸が鳥類に利用されているのもみられる。一方で、この精進川と豊平川の合流点には落差があり、階段式魚道設置されていた。しかし、設置から50年以上を経て魚類の遡上環境として良好であるとはいえなかったことから、2022年にこの既存魚道の改良がおこなわれていたものの、その評価は行われていなかった。近年魚カウンターによる魚類遡上数計測を自動化する試みが行われている。この試みは、カウンターセンサー設置の利便性から魚道内などでおこなわれることが多い。自然の河川での遡上数の計測は簡易魚道と組み合わせて行われた事例はあるが、まだほとんど報告がない。
そこで、札幌市を流れる精進川において、魚道改良の前後で遡上数がどのように変化したのかを魚カウンターとトラックシートで作られた簡易魚道(布式魚道)を組み合わせた手法により明らかにした。魚カウンターを取り付けた布式魚道が2022年と2023年の9月から10月の遡上期に設置された。
この布式魚道の下流で行われた魚道改良工事の前と工事後のサクラマス遡上数が魚カウンターにより計測された。その結果、魚道改良前の遡上数より改良後の遡上数が多いことが明らかになった。ただし、2023年の計測期間は2022年より10日間長かったため、その期間を除いた遡上数を比較すると両年ともほぼ同数であった。また、精進川が流入する豊平川流域では2022年のサクラマス産卵床数が例年より多く、2023年は再び減少し例年並みになった。この2年間での産卵環境の大きな変化が見られないことから、産卵床数の増減は遡上数のそれを反映していると考えられる。流域での遡上数が減少したにもかかわらず精進川への遡上数が変化しなかったことから、合流点付近における魚道改良は精進川へのサクラマス遡上数の増加に貢献している可能性が高いと考えられた。サクラマスの遡上環境が劣化したような河川では、このような魚道改良工事が遡河性魚類の遡上を増加させ、遡河性魚類が持つ上流域生態系の栄養源供給機能の健全化に貢献できることを期待する。