[A-CG41] 海洋表層－大気間の生物地球化学

[ACG41-03] 春季植物プランクトンブルーム期のオホーツク海南部における海洋大気有機エアロゾルの起源と生成過程

*宮崎 雄三¹、王 韵涵^1,2、立花 英里¹、山下 洋平^2,3、鈴木 光次^2,3、西岡 純¹ (1.北海道大学低温科学研究所、2.北海道大学大学院環境科学院、3.北海道大学大学院地球環境科学研究院)

キーワード：海洋大気有機エアロゾル、オホーツク海、海氷融解、大気―海洋間生物地球化学

海洋上の大気有機エアロゾルは粒子の雲凝結核能や氷晶核能を制御し、雲の生成を通して領域的な大気の放射収支など気候に影響を及ぼす。海洋表層は微小エアロゾルの主要な放出・生成源であり、生成されるエアロゾル粒子の数・質量と組成は海水中の微生物活動等を反映し、有機物と無機物の複雑な混合物を含む。オホーツク海は世界的に見ても最も生物生産が高い海域の一つであり、季節海氷域の南限に位置する。海氷融解後の春季植物プランクトンブルーム期の基礎生産増大により、海洋表層から大気への有機物の大量供給が予測される。しかしながら、特に季節海氷域における植物プランクトンブルームが、一次生成（海水飛沫）および二次生成される有機エアロゾルの生成過程・量に及ぼす影響に関する知見は乏しく、不確定性が大きい。本研究はオホーツク海南部でのブルーム期に海洋微生物活動が洋上の大気有機エアロゾルの量と生成過程に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
2021年4月にオホーツク海南部で実施された新青丸（KS-21-6）航海において、微小粒子（粒径0.95μm以下）と表層海水試料を取得した。航海期間は前半のブルーム期と後半のブルーム衰退期に大別された。試料の化学分析の結果、微小エアロゾル質量に対し有機物が約50%を占め支配的であり、水溶性成分の割合が大きいことが明らかになった。さらに有機物の安定炭素同位体の測定から、観測されたエアロゾルのうち、ブルーム期で71%、ブルーム衰退期で64% が海洋起源であると推定された。エアロゾル中の水溶性有機炭素（WSOC）と分子トレーサー濃度との相関関係から、観測された海洋由来のWSOCの大部分は、海水飛沫による一次生成ではなく、α-ピネンや硫化ジメチル（DMS）の酸化生成物に関連する前駆物質からの二次生成の寄与が大きいことが示唆された。さらにブルーム期の水溶性有機エアロゾル中のC:N平均比（2.4）はブルーム衰退期の平均比（8.4）より有意に低く、海洋表層の微生物活動に関連した含窒素有機エアロゾル生成の影響が大きいことが示唆された。実際、表層海水においてブルーム期の溶存態有機炭素（DOC）:溶存態有機窒素（DON）の平均比（12.8）もブルーム衰退期の平均比（14.7）より有意に低く、ブルーム期のDOCとDONはオホーツク海で研究期間に優占的な珪藻類であるFragilariopsis cylindrus （Watanabe, 2022）のようなアイスアルジーに関係していることが示唆された。本研究から、領域的な海洋表層から大気に放出生成される有機物の領域的な気候影響を考える上で、ブルーム期のアイスアルジーに由来する有機物のエアロゾル二次生成の重要性が指摘された。