日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG41] 海洋表層-大気間の生物地球化学

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:亀山 宗彦(北海道大学)、岩本 洋子(広島大学大学院統合生命科学研究科)、野口 真希(国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球表層システム研究センター)、小杉 如央(気象研究所)

17:15 〜 18:45

[ACG41-P06] BGCフロートによる北西太平洋域の酸素 (O2) 高頻度観測と大気海洋間O2フラックス

*小杉 如央1岡 英太郎2佐藤 佳奈子3 (1.気象研究所、2.東京大学大気海洋研究所、3.国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

キーワード:BGCフロート、大気ー海洋間酸素フラックス、貧酸素化

【緒言】陸上における化石燃料の燃焼と植物による光合成は、大気中のCO2とO2濃度を同時に増減させる。一方で海洋ではCO2もO2も海水中で溶存態として存在しており、大気海洋間のガス交換を介してCO2とO2の大気中濃度に与える影響は互いに独立している点が特徴である。また、世界各地で表層水温の上昇や、冬季混合の弱化などによる海水中の溶存酸素濃度の長期的な減少、すなわち貧酸素化の進行が明らかになっている。このように大気海洋間のO2交換量(フラックス)の定量は海洋の生産力の見積もり、貧酸素化の監視、地球規模の炭素循環把握に大きな役割を果たす。
現在までに大気海洋間のO2フラックスについては、船舶観測の結果をとりまとめた気候値的な値が得られているが、短い時間スケールの変動についてはあまり研究が進んでいなかった。今回、O2センサーを搭載したアルゴフロートによる観測結果を使用して、数日単位で計算した北西太平洋域のO2フラックスについて報告する。

【データ】研究で使用するフロートデータは2021年2月から2023年6月に北西太平洋に展開した12台のBGCフロートで取得した。これらフロート全てが高速応答を特徴とするO2センサーRINKOを搭載していた。フロートによる観測については本学会A-CG47セッションで発表される岡他の発表も参考にされたい。
フロートで得られた水深10 dbarにおける水温、塩分、溶存酸素を表面の値とし、フラックスの計算に利用した。海水の酸素溶解度はGarcia and Gordon [1992]の値を使用し、砕波による過飽和を考慮した[Wolf and Thorpe, 1991]。ガス交換係数はIida et al. [2021]の値を、フラックスの計算に使う風速と気圧は再解析JRA-55の月平均値(空間解像度1.25度)を使用し、のべ20年分の酸素フラックスを計算した。

【結果】季節的には概ね夏に海洋がO2を放出、冬に海洋がO2を吸収する傾向が見られた。夏季は表層水温の上昇により、O2の溶解度が低下することで酸素過飽和状態となり、O2が大気へと放出されやすい。ただし、低緯度域を中心に水温が低下する9月以降の秋季にも引き続きO2が大気へと放出されるケースがみられた。これは亜表層に形成されたO2極大層が混合層に取り込まれることでO2過飽和が維持されていたためとみられる。一方、冬季は水温の低下に伴うO2溶解度の上昇に加えて、鉛直混合によってO2未飽和の深層水が混合層に取り込まれることにより表層のO2未飽和が顕著となっていた。特に高緯度域では鉛直混合の深さが大きいためO2未飽和の度合いも大きくなっていた。
各フロートの緯度と年間のフラックスの関係を添付の図に示す。年間のフラックスは風速の大きい冬季に海がどれだけO2を吸収するかで決定される部分が大きく、北緯30度付近を境に北側では海がO2を吸収、南側では海がO2を放出していた。この結果から、海洋内部では北から南へとO2が輸送されていることが示唆され、亜熱帯モード水や中央モード水がこれに大きな役割を果たしているとみられる。また、本研究の対象海域はCO2の吸収域であることから、概ね北緯30度より北の海域は海洋がO2とCO2の両方を吸収していることがわかった。

【図キャプション】 フロートの位置と酸素フラックスの関係。横軸は緯度を示し、各フロートの年間の最も北と南の位置を●で示して線でつないでいる。縦軸は酸素フラックスで、プラス(グラフ上側)は海が酸素を吸収、マイナス(グラフ下側)は海が酸素を放出していることを表す。