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[ACG42-02] ユーコン準州ビーバークリーク周辺における局所的永久凍土融解:InSARによる面的検出と現地検証
キーワード:永久凍土、森林火災、ポリゴン、サーモカルスト、だいち2号、合成開口レーダー干渉法
永久凍土は大気中の約2倍の炭素を貯蔵し,温暖化による融解と微生物分解が大気中へCO2やCH4の放出を促進することで、気温上昇へ正のフィードバックを与えると懸念されている(Schuur et al., 2022).しかし、最新のIPCC AR6においては、永久凍土の融解プロセスを考慮した地球システムモデル(ESMs)の報告は少なく、地盤沈下や融解侵食を伴う急激な融解や,植生変化や森林火災と永久凍土融解との相互作用がESMsで全く考慮されていない(Schädel et al., 2024).そのため、急激な融解を含めた広域的な永久凍土の融解プロセスを面的に観測する必要がある.
カナダ・ユーコン準州ビーバークリーク(以下,BC)を研究対象地域として,急激な永久凍土融解が発生する可能性のある BC南部の火災跡地(2019年7-9月に約28 km²が燃焼)とBC北部のポリゴン地形周辺に着目した.JAXAのLバンドSAR衛星ALOS-2/PALSAR-2のデータを用いて,合成開口レーダー干渉法(Interferometric Synthetic Aperture Radar,以下InSAR)を用いた面的な地盤変動解析を実施した.経年的変動量の解析については2015年以降のアーカイブが蓄積しているStripMap 10m(SM3)データを使用した.また,初期解析においてBC周辺の融解沈下は空間的に不均一であることが分かり,SM3データでは局所的に干渉性が低下したため(柳谷他,JpGU2023),2023年夏季に高空間分解能のStripMap 3m (SM1)モードによる観測を実施し季節的変動量を解析した.2022・23年晩夏には,永久凍土の融解が土壌・水フラックス・炭素循環に与える影響の解明を目的とした国際研究プロジェクトPRISMARCTYCの一環として現地観測を実施した.InSAR画像で検出した地盤沈下域における融解深の計測,GNSS測位,ドローン空撮によるオルソモザイク画像とDSMの作成を実施し,地盤変動量の比較検証を行った.
火災跡地サイト北部の斜面では,火災直後の2019年から2023年まで連続して年間約6㎝程度の地盤沈下シグナルが検出され,2023年6-9月に最大15㎝の季節的地盤沈下シグナルを検出した.この斜面における地盤沈下シグナルの空間分布は,表層地質図においてモレーンに囲まれた領域と一致していた.また,火災跡地に隣接するコントロールサイトの平均融解深は45cmであったのに対して,斜面に沿ったトランセクト上における融解深は60~111cmであり,季節沈下量の最大値を検出した地点において最も深化していた.これらの結果は,2019年の火災による地表面植生の焼失を契機に,モレーン間の堆積層分布域において局所的にアイスレンズまたは地下氷が融解したことを示唆している.また,ハンモックモレーンが分布する火災跡地サイト中央部では,更に細かい空間スケールで不均一な季節的地盤沈下シグナルが検出された.本領域における地盤沈下シグナルは,Sentinel-2データから計算した燃焼の深刻度を示す指標(delta Normalized Burn Ratio,dNBR)の空間パターンとは一致せず,地形の起伏を示す指標と概ね一致した.本領域ではSM3データによる経年的地盤変動は検出されていないが,分解能の影響により検出できていない可能性があり,今後SM1データを用いた経年変動解析を実施し検証する.
BC北部のポリゴン地形サイトでは,浸水による干渉性低下のためポリゴン地形内部の地盤変動量を検出できなかったが,ポリゴン地形近傍において2023年6-9月の間に最大16㎝の局所的な地盤沈下シグナルが検出された.火災跡地サイトとは対照的に,最大変動域の内外で地表面植生分布や,地形,表層地質は概ね一様であった.今後はPRISMARCTYCプロジェクトの電気探査やコアリングチームと知見の共有を進め,最大沈下域における地下構造の解明やポリゴン地形拡大プロセスとの関連を明らかにする.
カナダ・ユーコン準州ビーバークリーク(以下,BC)を研究対象地域として,急激な永久凍土融解が発生する可能性のある BC南部の火災跡地(2019年7-9月に約28 km²が燃焼)とBC北部のポリゴン地形周辺に着目した.JAXAのLバンドSAR衛星ALOS-2/PALSAR-2のデータを用いて,合成開口レーダー干渉法(Interferometric Synthetic Aperture Radar,以下InSAR)を用いた面的な地盤変動解析を実施した.経年的変動量の解析については2015年以降のアーカイブが蓄積しているStripMap 10m(SM3)データを使用した.また,初期解析においてBC周辺の融解沈下は空間的に不均一であることが分かり,SM3データでは局所的に干渉性が低下したため(柳谷他,JpGU2023),2023年夏季に高空間分解能のStripMap 3m (SM1)モードによる観測を実施し季節的変動量を解析した.2022・23年晩夏には,永久凍土の融解が土壌・水フラックス・炭素循環に与える影響の解明を目的とした国際研究プロジェクトPRISMARCTYCの一環として現地観測を実施した.InSAR画像で検出した地盤沈下域における融解深の計測,GNSS測位,ドローン空撮によるオルソモザイク画像とDSMの作成を実施し,地盤変動量の比較検証を行った.
火災跡地サイト北部の斜面では,火災直後の2019年から2023年まで連続して年間約6㎝程度の地盤沈下シグナルが検出され,2023年6-9月に最大15㎝の季節的地盤沈下シグナルを検出した.この斜面における地盤沈下シグナルの空間分布は,表層地質図においてモレーンに囲まれた領域と一致していた.また,火災跡地に隣接するコントロールサイトの平均融解深は45cmであったのに対して,斜面に沿ったトランセクト上における融解深は60~111cmであり,季節沈下量の最大値を検出した地点において最も深化していた.これらの結果は,2019年の火災による地表面植生の焼失を契機に,モレーン間の堆積層分布域において局所的にアイスレンズまたは地下氷が融解したことを示唆している.また,ハンモックモレーンが分布する火災跡地サイト中央部では,更に細かい空間スケールで不均一な季節的地盤沈下シグナルが検出された.本領域における地盤沈下シグナルは,Sentinel-2データから計算した燃焼の深刻度を示す指標(delta Normalized Burn Ratio,dNBR)の空間パターンとは一致せず,地形の起伏を示す指標と概ね一致した.本領域ではSM3データによる経年的地盤変動は検出されていないが,分解能の影響により検出できていない可能性があり,今後SM1データを用いた経年変動解析を実施し検証する.
BC北部のポリゴン地形サイトでは,浸水による干渉性低下のためポリゴン地形内部の地盤変動量を検出できなかったが,ポリゴン地形近傍において2023年6-9月の間に最大16㎝の局所的な地盤沈下シグナルが検出された.火災跡地サイトとは対照的に,最大変動域の内外で地表面植生分布や,地形,表層地質は概ね一様であった.今後はPRISMARCTYCプロジェクトの電気探査やコアリングチームと知見の共有を進め,最大沈下域における地下構造の解明やポリゴン地形拡大プロセスとの関連を明らかにする.