[A-CG42] 北極域の科学

[ACG42-09] 渦相関手法を用いた北極海多年氷域での抵抗係数の直接計測と静的安定度への依存性について

*川口 悠介¹、Benjamin Rabe ²、Ivan Kuznetsov²、Mario Hoppmann²、白澤 邦男³ (1.東京大学　大気海洋研究所、2.アルフレッド・ウェゲナー海洋研究所、3.北海道大学　低温科学研究所)

キーワード：北極海、乱流フラックス、渦相関、海氷海洋境界層

抵抗係数（Cw）は、海氷-海洋連結シミュレーションにおいて重要なパラメータであり、両媒体間の運動量の伝達を決定する。現在の地球規模の気候モデルのシミュレーションにおいて、Cwは境界面の安定性に関係なく、しばしば一定値として規定されることが多い。本研究は、漂流する海氷下での熱・運動量の乱流フラックスを渦相関を用いて直接的な観測を行い、Cwの変動性の影響を調べた。観測は、海氷海洋境界面が夏の融解から再凍結に移行する期間、中央北極海全域を対象に広範囲に行われた。北極海の中央海盆域における９つの観測ステーションを比較すると、境界面での摩擦速度と浮力フラックスから安定度パラメータ（μ）が推定され、Cwとμとの明らかな関係性が示された。Cwはμの増加とともに指数関数的に減衰し、静的に不安定（結氷）な状況下では氷から海への運動量伝達が強まり、安定な状況（融解）では弱まることが示唆された。この観測の結果から、一定値のCwを用いた数値シミュレーションでは、氷海の運動量交換が過小評価される傾向にあり、特に氷の成長期に表層流や氷の漂流速度が数値的に過小評価されている可能性が示唆される。