日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG42] 北極域の科学

2024年5月30日(木) 13:45 〜 15:00 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:島田 利元(宇宙航空研究開発機構)、堀 正岳(東京大学大気海洋研究所)、川上 達也(北海道大学)、柳谷 一輝(宇宙航空研究開発機構)、座長:川上 達也(北海道大学)、島田 利元(宇宙航空研究開発機構)

14:15 〜 14:30

[ACG42-13] アラスカ州グルカナ氷河とその周辺に見られる赤雪藻類の標高分布

*小野 誠仁1植竹 淳2鈴木 拓海1阿部 稜平1小林 綺乃1竹内 望1 (1.千葉大学、2.北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター)

キーワード:積雪、氷河、アラスカ、赤雪、雪氷生物

北極域の積雪で見られる赤雪は,雪解けが進む春期から夏期にかけて,積雪表面が赤く色づく現象である.この現象により,積雪表面のアルベドが0.1–0.2程低下し,積雪の融解が促進する.赤雪は,寒冷環境に適応した光合成微生物である雪氷藻類の繁殖によって引き起こされる.赤雪はこれまでに,年間を通して低温環境である氷河上の積雪や,高山帯の土壌や植生上の積雪から報告されてきたが,その発生を駆動する藻類の繁殖条件については明らかになっていない.本研究では,亜北極の氷河を対象に,氷河上から氷河後退域における赤雪中の雪氷藻類と栄養塩の標高分布から,積雪下の環境の違いが赤雪発生に与える影響を明らかにすることを目的とした.
米国アラスカ州のグルカナ氷河とその周辺において,2023年7月3日から7月5日にかけて赤雪を採取した.調査時は,試料採取を行った氷河上(標高1351–1777 m)では全域にわたって,氷河後退域(標高1122–1283 m)ではパッチ状に積雪が見られた.千葉大学に持ち帰ったサンプルは,顕微鏡で形態的特徴を観察,計数し,藻類の細胞濃度を算出した.併せて,藻類細胞の直径を画像処理ソフト(Image J)で測定した.また,環境条件として積雪中の主要溶存化学成分および溶存有機態窒素(Dissolved organic nitrogen:DON)を測定した.
積雪サンプルを顕微鏡で観察した結果,主に球形の藻類細胞が含まれていたほか,卵形,楕円形,ラグビーボール形の藻類細胞が含まれていることが明らかになった.赤雪表面における球形の藻類細胞は,氷河上流から氷河後退域にかけて細胞濃度に変化が見られなかった(2.6 ± 1.2 × 105 cells mL-1)のに対し,球形以外の藻類細胞は,氷河下流部から氷河後退域にかけて濃度が高く(3.2 ± 2.4 × 104 cells mL-1),氷河上流部ではほとんど見られなかった(2.2 ± 3.0 × 102 cells mL-1).また,球形の藻類細胞の直径は,氷河上(13.8 ± 2.6 μm)よりも氷河後退域(19.9 ± 3.9 μm)で大きかった.これらのことから,球形藻類細胞のサイズ増加および球形以外の藻類細胞の増加は,積雪環境の違いによらず,融雪の進行に伴っておこると考えられる.赤雪中に藻類の栄養となるPO43-,NO3-,NH4+がほとんど含まれていなかった一方で,氷河上のDONは標高が高いほど濃度が高かったことは,融雪とともに微生物によってDONが分解され,NO3-,NH4+が藻類に供給されていることを示唆している.以上のことから,積雪下の環境に関係なく,赤雪中の藻類細胞は,微生物活動によって供給される無機態窒素量によってその活動が制限されることが示唆された