10:45 〜 11:00
[ACG43-06] 河川溶存鉄濃度およびフラックスの全球的評価
★招待講演
キーワード:溶存鉄、湿地、酸化還元
地球表層の鉄循環において,陸域から海域への移行は重要な素過程である。すなわち,巨大な鉄のプールである土壌や岩盤をソースとして徐々に可溶化した溶存鉄,もしくは土粒子そのものが輸送される懸濁態鉄,さらに陸域起源のエアロゾルとして,河川・湖沼・大気を介して海洋へと鉄は移行している.河川中の鉄は汽水域における凝集沈殿により50~90%程度が水域から除去される一方,海洋における鉄輸送機構が存在することも明らかにされており,陸域起源の鉄のうち河川由来がその約半分を占めるとの見積もりもある.そのため,河川中の鉄形成メカニズムを明らかにし,鉄濃度およびフラックスを正確に評価することは,鉄循環理解にとって必要不可欠である。そこで,本研究では特に植物プランクトンが主として利用対象とするとされる溶存鉄に着目し,河川中の溶存鉄濃度およびフラックスの全球的評価を行った.また得られた結果と溶存鉄生成メカニズムに関する既往知見をもとに今後の展望を考察する.
溶存鉄濃度としてGEMStatのデータを対象として,1990~2020年の期間に30点以上の時系列データを有する地点を選択し,有意な増減トレンドを示さず流域面積1,000km2以上の277流域を解析対象とした.各流域の期間中の溶存鉄濃度平均値と,流域内の土壌タイプの構成比,土地利用の構成比,地形指標の平均値,気象条件(降水量および気温)との相関分析ならびに重回帰分析により,溶存鉄濃度を決定する支配要因を検討した.ここで,土壌タイプにはHarmonized World Soil Database(HWSD)の34タイプ,土地利用にはGlobal 1-km Consensus Land Coverの12タイプ,地形指標にはHydroSHED(15秒解像度)より構築されたデータセット,気象条件にはCRU TS4.05(0.25度解像度)を用いた.また,各溶存鉄観測地点の流域境界は,HydroSHED(30秒解像度)の流向データを用いて確定した.
得られた結果は次のとおりである.第一に,気象条件より算出したKöppenの気候区分により溶存鉄濃度の大小を大別可能であることがわかった.すなわち,寒帯:0.05±0.05 mg/L,亜寒帯:0.14±0.22 mg/L,温帯:0.08±0.09 mg/L,熱帯:0.06±0.06 mg/L,乾燥帯:0.02±0.02 mg/Lとなり,亜寒帯および温帯において相対的に高い溶存鉄濃度をもつ河川が分布し,特に亜寒帯において溶存鉄濃度の高い河川が多く存在する.さらに詳細な検討により,溶存鉄濃度との間に有意な正の相関が認められる要因としてGleysol,Histosol,地形指標,が見出された.いずれの要因も生物地球化学的な溶存鉄生成メカニズムと整合的であるとともに,日本域の河川を対象とした同様の分析結果とも整合する.そこで,これらの要因を変数として溶存鉄濃度を定量表現する回帰式を構築し,得られた回帰式とCRUTS4.05より概算される年流出量を用いて全球的な溶存鉄フラックスの推定値を求めた.河川ごとに全球スケールで溶存鉄フラックスを求めた事例としては世界で初と考えられる.ただし,今回用いたデータにはアジア域の河川データがほとんど含まれておらず,河川溶存鉄濃度データの空白域となっているため,得られた結果の妥当性を検証・改良するためのデータ収集を進める必要がある.
溶存鉄濃度としてGEMStatのデータを対象として,1990~2020年の期間に30点以上の時系列データを有する地点を選択し,有意な増減トレンドを示さず流域面積1,000km2以上の277流域を解析対象とした.各流域の期間中の溶存鉄濃度平均値と,流域内の土壌タイプの構成比,土地利用の構成比,地形指標の平均値,気象条件(降水量および気温)との相関分析ならびに重回帰分析により,溶存鉄濃度を決定する支配要因を検討した.ここで,土壌タイプにはHarmonized World Soil Database(HWSD)の34タイプ,土地利用にはGlobal 1-km Consensus Land Coverの12タイプ,地形指標にはHydroSHED(15秒解像度)より構築されたデータセット,気象条件にはCRU TS4.05(0.25度解像度)を用いた.また,各溶存鉄観測地点の流域境界は,HydroSHED(30秒解像度)の流向データを用いて確定した.
得られた結果は次のとおりである.第一に,気象条件より算出したKöppenの気候区分により溶存鉄濃度の大小を大別可能であることがわかった.すなわち,寒帯:0.05±0.05 mg/L,亜寒帯:0.14±0.22 mg/L,温帯:0.08±0.09 mg/L,熱帯:0.06±0.06 mg/L,乾燥帯:0.02±0.02 mg/Lとなり,亜寒帯および温帯において相対的に高い溶存鉄濃度をもつ河川が分布し,特に亜寒帯において溶存鉄濃度の高い河川が多く存在する.さらに詳細な検討により,溶存鉄濃度との間に有意な正の相関が認められる要因としてGleysol,Histosol,地形指標,が見出された.いずれの要因も生物地球化学的な溶存鉄生成メカニズムと整合的であるとともに,日本域の河川を対象とした同様の分析結果とも整合する.そこで,これらの要因を変数として溶存鉄濃度を定量表現する回帰式を構築し,得られた回帰式とCRUTS4.05より概算される年流出量を用いて全球的な溶存鉄フラックスの推定値を求めた.河川ごとに全球スケールで溶存鉄フラックスを求めた事例としては世界で初と考えられる.ただし,今回用いたデータにはアジア域の河川データがほとんど含まれておらず,河川溶存鉄濃度データの空白域となっているため,得られた結果の妥当性を検証・改良するためのデータ収集を進める必要がある.