17:15 〜 18:45
[ACG43-P07] 阿武隈川下流域における粒径毎の土砂動態に及ぼす上流からの土砂流入条件の影響

キーワード:土砂輸送、土砂量、粒度分布、1次元モデル、境界条件、阿武隈川
背景・目的
河川から海域への土砂供給量の減少や海岸構造物による沿岸漂砂の阻止によって,日本全国で急速に砂浜侵食が進行している.この課題を検討するためには,砂浜海岸の土砂収支を定量的に明らかにする必要があり,河川から海岸への土砂流出量の定量化のために河床変動計算が行われる場合が多い.この際,上流端から流入する土砂量及びその粒度分布を適切に入力することが非常に重要である.上流からの土砂流入量について,山地部での斜面崩壊による影響やダムや土地利用の変化といった人間活動などの影響を想定した解析事例は数多く報告されているが,流域内の土砂動態を長期スケールかつ粒径毎に評価するには十分な知見が得られていないのが現状である.本研究では,阿武隈川下流域において2000~2019年の1次元河床変動解析を行い,様々な上流端の流入土砂条件を設定して,流域土砂動態に及ぼす長期的影響を評価する.
解析方法と条件
本研究では,長期間かつ粒径毎に河床変動計算を行うため,竹林・藤田の1次元混合粒径河床変動解析モデルを用いた.掃流砂量は芦田・江頭・劉の式から求める.平衡状態における浮遊砂の基準点濃度はLane and Kalinskeの式,浮遊砂の沈降速度はRubeyの式を用いた.
対象とする解析区間は,阿武隈川下流域の丸森から荒浜までの36.4kmで,2000年から2019年の20年間で流量が1,000m3/sを超える53出水を対象とした.初期条件である河床位及び河床材料の粒度分布は,国土交通省提供の2000年実測値を与えた.粒径には,0.062mm(シルト),0.089 mm, 0.16 mm(細砂),0.33mm, 0.60mm(中砂),1.3 mm(粗砂),3.1 mm(細礫),9.5 mm(中礫),38 mm(粗礫)の9粒径階を設定した.境界条件である上流端流量と下流端水位は,それぞれ丸森水位観測所と荒浜水位観測所の実測値を用いた.
上流端から平衡流砂量を供給した結果を元に,上流からの土砂流入量に関して感度分析を行った.土砂流入量と流出量の関係について評価を行うために,土砂流入量を平衡浮遊砂量の0.1倍,0.2倍,0.5倍,2倍,5倍,ならびに10倍に設定してそれぞれ計算した.
結果
上流端から平衡流砂量を流入した場合,河川から海岸への年平均土砂流出量は31.9万m3/年で,その7割程度をシルト分が占める結果となった.
上流端からの総土砂流入量と海岸への総土砂流出量の関係について,両者は線形関係にあることが明らかとなった.回帰直線の傾きは正の値であり,土砂流入量が増加するほど土砂流出量も増加した.また,傾きの値は1よりも小さくなっていることから,海岸への土砂流出量は上流端からの土砂流入量よりも小さくなり,その分河道内の堆積量が増加したと推察される.
この回帰直線の傾きと上流端からの距離との関係について,上流端からの距離が大きくなるほど,その値は減少した.上流端から流入した土砂は,ある地点までの区間内に堆積したと考えられる.特に上流端付近において傾きの値の変化量が大きくなっていたため,この地点では比較的多くの土砂が堆積したと考えられる.回帰直線の切片について,上流端からの距離が大きくなるほど,その値は増加傾向にあった.切片の値は河道に堆積する土砂が流出する量であると考えられるため,ある地点までの区間内の河床材料によって切片の値が変化したと推察される.
粒径毎の土砂流入量と流出量の関係についても評価した.粒径が0.062 mmと0.089 mmの土砂について,回帰直線の傾きが1に近い値であったため,流入した土砂のほとんどはそのまま海岸へと流出したと考えられる.粒径が0.16 mmの土砂について,回帰直線の傾きは0.65であった.流入した土砂の65%が海岸へと流出し,35%が河道内に堆積したと考えられる.中砂及び粗砂について,土砂流入量の変化に対して流出量の変化は小さいことが確認された.また,中砂は切片の値が他の粒径のそれと比べて大きいため,もともと河道内に堆積していた土砂量によって海岸への土砂流出量のポテンシャルが変化すると推察される.
結論
本研究では,様々な上流端の流入土砂条件を設定して,流域土砂動態に及ぼす長期的影響を評価した.上流端からの土砂流入量と海岸への土砂流出量は線形関係にあり,土砂流入量が増加するほど土砂流出量も増加し,河道内の堆積量も増加した.上流端からの距離が大きくなるほど,回帰直線の傾きは減少,切片は増加する傾向にあることが示された.また,両者の関係は粒径毎で異なる結果が示され,シルト及び細砂は流入量が増加するほど流出量も増加した.一方,中砂及び粗砂の流出量は流入量によらずほぼ一定であることが示され,河道に堆積していた土砂量によって,流出量のポテンシャルが変化すると考えられる.
河川から海域への土砂供給量の減少や海岸構造物による沿岸漂砂の阻止によって,日本全国で急速に砂浜侵食が進行している.この課題を検討するためには,砂浜海岸の土砂収支を定量的に明らかにする必要があり,河川から海岸への土砂流出量の定量化のために河床変動計算が行われる場合が多い.この際,上流端から流入する土砂量及びその粒度分布を適切に入力することが非常に重要である.上流からの土砂流入量について,山地部での斜面崩壊による影響やダムや土地利用の変化といった人間活動などの影響を想定した解析事例は数多く報告されているが,流域内の土砂動態を長期スケールかつ粒径毎に評価するには十分な知見が得られていないのが現状である.本研究では,阿武隈川下流域において2000~2019年の1次元河床変動解析を行い,様々な上流端の流入土砂条件を設定して,流域土砂動態に及ぼす長期的影響を評価する.
解析方法と条件
本研究では,長期間かつ粒径毎に河床変動計算を行うため,竹林・藤田の1次元混合粒径河床変動解析モデルを用いた.掃流砂量は芦田・江頭・劉の式から求める.平衡状態における浮遊砂の基準点濃度はLane and Kalinskeの式,浮遊砂の沈降速度はRubeyの式を用いた.
対象とする解析区間は,阿武隈川下流域の丸森から荒浜までの36.4kmで,2000年から2019年の20年間で流量が1,000m3/sを超える53出水を対象とした.初期条件である河床位及び河床材料の粒度分布は,国土交通省提供の2000年実測値を与えた.粒径には,0.062mm(シルト),0.089 mm, 0.16 mm(細砂),0.33mm, 0.60mm(中砂),1.3 mm(粗砂),3.1 mm(細礫),9.5 mm(中礫),38 mm(粗礫)の9粒径階を設定した.境界条件である上流端流量と下流端水位は,それぞれ丸森水位観測所と荒浜水位観測所の実測値を用いた.
上流端から平衡流砂量を供給した結果を元に,上流からの土砂流入量に関して感度分析を行った.土砂流入量と流出量の関係について評価を行うために,土砂流入量を平衡浮遊砂量の0.1倍,0.2倍,0.5倍,2倍,5倍,ならびに10倍に設定してそれぞれ計算した.
結果
上流端から平衡流砂量を流入した場合,河川から海岸への年平均土砂流出量は31.9万m3/年で,その7割程度をシルト分が占める結果となった.
上流端からの総土砂流入量と海岸への総土砂流出量の関係について,両者は線形関係にあることが明らかとなった.回帰直線の傾きは正の値であり,土砂流入量が増加するほど土砂流出量も増加した.また,傾きの値は1よりも小さくなっていることから,海岸への土砂流出量は上流端からの土砂流入量よりも小さくなり,その分河道内の堆積量が増加したと推察される.
この回帰直線の傾きと上流端からの距離との関係について,上流端からの距離が大きくなるほど,その値は減少した.上流端から流入した土砂は,ある地点までの区間内に堆積したと考えられる.特に上流端付近において傾きの値の変化量が大きくなっていたため,この地点では比較的多くの土砂が堆積したと考えられる.回帰直線の切片について,上流端からの距離が大きくなるほど,その値は増加傾向にあった.切片の値は河道に堆積する土砂が流出する量であると考えられるため,ある地点までの区間内の河床材料によって切片の値が変化したと推察される.
粒径毎の土砂流入量と流出量の関係についても評価した.粒径が0.062 mmと0.089 mmの土砂について,回帰直線の傾きが1に近い値であったため,流入した土砂のほとんどはそのまま海岸へと流出したと考えられる.粒径が0.16 mmの土砂について,回帰直線の傾きは0.65であった.流入した土砂の65%が海岸へと流出し,35%が河道内に堆積したと考えられる.中砂及び粗砂について,土砂流入量の変化に対して流出量の変化は小さいことが確認された.また,中砂は切片の値が他の粒径のそれと比べて大きいため,もともと河道内に堆積していた土砂量によって海岸への土砂流出量のポテンシャルが変化すると推察される.
結論
本研究では,様々な上流端の流入土砂条件を設定して,流域土砂動態に及ぼす長期的影響を評価した.上流端からの土砂流入量と海岸への土砂流出量は線形関係にあり,土砂流入量が増加するほど土砂流出量も増加し,河道内の堆積量も増加した.上流端からの距離が大きくなるほど,回帰直線の傾きは減少,切片は増加する傾向にあることが示された.また,両者の関係は粒径毎で異なる結果が示され,シルト及び細砂は流入量が増加するほど流出量も増加した.一方,中砂及び粗砂の流出量は流入量によらずほぼ一定であることが示され,河道に堆積していた土砂量によって,流出量のポテンシャルが変化すると考えられる.