日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG46] エミュレータの開発と応用

2024年5月29日(水) 10:45 〜 12:00 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:筒井 純一(電力中央研究所)、杉山 昌広(東京大学未来ビジョン研究センター)、高橋 潔(国立研究開発法人国立環境研究所)、座長:高橋 潔(国立研究開発法人国立環境研究所)

10:45 〜 11:00

[ACG46-01] 温暖化レベルの確率論的評価に用いる2層モデルエミュレータのキャリブレーション

*筒井 純一1 (1.電力中央研究所)

キーワード:気候感度、CO2強制力、海洋熱吸収、パラメータアンサンブル、1.5°Cレベル

気候変動に関する政府間パネルの最新の第6次評価は、第1作業部会の報告書において、代表的な5通りのシナリオの下での温暖化レベルの長期的推移と1.5°C・2°Cレベルを超える時期について、確率論的な評価を提示している。評価は複数の証拠に基づいており、とりわけ将来のグローバル気候変化に関する第4章では、気候感度の評価を反映したシンプルな2層エネルギー収支モデルによるエミュレータ計算が、多数のフルスケール気候モデルによるシナリオ実験とともに参照されているのが注目される。本研究では、このエミュレータの方法を公表されたデータとプログラムコードに基づいて調査し、さらに地球エネルギー収支に関する第7章で扱われたエミュレータの大規模パラメータアンサンブルとの比較を通じて、温暖化レベル評価の方法改善を探る。
第4章では、各シナリオの温暖化レベルが最良推定値と5–95%幅について示されている。この数値はフルモデルとエミュレータによって個別に算出され、両者の平均が最終的な評価となった。前者は第6期結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP6)が提供するシナリオ実験におけるマルチモデル予測を観測情報で制約した推定であり、後者は気候感度の最良推定値と5–95%幅の上・下限に対応するパラメータ設定で計算した結果である。
制約されたCMIP6と気候感度が調整されたエミュレータの5–95%幅は互いに類似するが、低排出シナリオでは後者が小さいのが目立つ。この違いは、第4章のエミュレータが、第7章で評価された有効放射強制力の最良推定値のみで駆動されたことに起因すると推測される。実際、様々な強制因子の不確実幅を考慮したアンサンブル計算では、制約されたCMIP6との差が縮小する。1.5–2°Cレベルが焦点となる緩和シナリオの気候評価では、強制力の不確実性により注意を払う必要性が示唆される。
所定の気候感度に対する2層モデルのキャリブレーションは、モデルで気候フィードバックと海洋熱吸収を制御する計5個のパラメータを、CO2濃度倍増の放射強制力とともに、与えられたequilibrium climate sensitivity(ECS)とtransient climate response(TCR)の値に対応づけることである。第4章の方法では、モデルの層厚とCO2倍増の強制力を固定し、さらに海洋熱吸収を制御する2つのパラメータを結合することで、劣決定系の問題に対処している。加えて、TCRとECSの比を簡略的に扱う近似も施されている。アンサンブル実験との比較ならびに数理的な分析から、これらの点についても改善の余地があることが示唆される。