日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW18] 水循環・水環境

2024年5月29日(水) 09:00 〜 10:30 201A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小槻 峻司(千葉大学 環境リモートセンシング研究センター)、林 武司(秋田大学教育文化学部)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、濱 侃(千葉大学大学院園芸学研究院)、座長:福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)

09:00 〜 09:15

[AHW18-01] 衛星リモートセンシングによるヒノキ林蒸散量推定モデルの開発 -樹液流観測データ、森林簿データを通して-

★招待講演

*橋本 朝陽1,2、Chiu Chen-Wei2恩田 裕一2、立石 麻紀子3、鶴田 健二4五味 高志5 (1.筑波大学大学院理工情報生命学術院生命地球科学研究群地球科学学位プログラム地球環境科学領域、2.筑波大学放射線・アイソトープ地球システム研究センター、3.京都大学学術研究展開センター、4.滋賀県琵琶湖環境科学研究センター、5.名古屋大学生命農学研究科)

キーワード:衛星リモートセンシング、蒸発散、蒸散、樹液流、森林簿

蒸発散は地球上の水循環において主要な要素の一つであり、その中でも樹冠蒸散(Et)は、全体の蒸発散で多くの割合を占める。Etの全体像把握には広域での観測が必要不可欠であるが、広域実測は膨大な時間や労力を必要とするため、実現が困難であった。衛星リモートセンシングは、広域かつ低コストで情報を得られるため、Etの推定において非常に有効な手法である。
先行研究では、Et推定のために数多くのモデルが開発されてきた。これらの主な課題として、1. 植生が被覆している地域において、その種類や状態に影響を受けること、2. 総蒸発散モデルにおいて、蒸散と蒸発を正確に区別することが困難であることが挙げられる。Etは他の蒸発要素とは異なり、気温、日射等の気象的要素だけでなく、植生の状態、光合成量にも影響を受ける。これらを加味した樹冠蒸散量推定モデルを作成することで、高精度かつ広域での樹冠蒸散量推定が可能になることが期待される。
本研究では日本のヒノキ人工林を対象とし、1. 気象学的影響、2. 植物生理学的影響を加味したEt推定モデルを、衛星リモートセンシングを用いて開発することを目的とした。Etの実測値として、栃木県、神奈川県、福岡県で観測されたヒノキ林における樹液流量データを利用した。衛星画像はLandsat5, 7, 8を用い、樹液流量観測と同一期間のデータを利用した。
気象学的影響の評価のため、衛星画像から得られる表面温度から空気密度を算出し、樹液流量の関係を調査した。その結果、1月から3月では、空気密度―樹液流量の間に高い相関関係があることが明らかとなった。この関係を用いて、気象学的に影響を受ける樹冠蒸散量を定義した。
樹種の分布が示されている森林簿データ(群馬県桐生川ダム周辺)、および2011年から2018年にかけてのLandsat5, 7, 8画像を利用し、ヒノキ林における可視光、および近赤外反射率の季節変動を調査した。その結果、近赤外は葉面積に、可視光赤・可視光緑を利用した正規化指標は光合成量に敏感であることが示唆された。推定された葉面積、及び光合成量を用いることで、植物生理学的に影響を受ける樹冠蒸散量を定義した。
これら二つの要素は、季節によって影響する割合が変化すること、すなわち、推定する日の気温によって、それらの影響度合いが変化することが考えられる。それぞれの要素が影響する割合を定めるため、樹液流実測地点における2011年から2018年にかけての最低、最高表面温度をそれぞれ0、1とし、ある日の表面温度を0から1の間で表す指標を作成した。これにより、気象学的に影響される割合、および植物生理学的に影響する割合を定めた。また、Etに大きく影響を与える辺材面積をDBH、もしくは樹齢を用いて推定し、モデルに組み込んだ。その結果、実測樹液流量とモデル推定値の間にr = 0.74-0.88の相関関係が見られた。また、衛星画像撮影直前の降雨量データを用いて補正を行うことで、r = 0.76-0.89まで精度が向上した。
本研究で開発されたモデルは、衛星画像と森林簿のみでEt推定が可能、地域による気候の差異に影響を受けにくい、植生の活性度を考慮している、総蒸発散におけるEtの寄与率が推定可能といった利点が挙げられる。