日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW18] 水循環・水環境

2024年5月29日(水) 10:45 〜 11:45 201A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小槻 峻司(千葉大学 環境リモートセンシング研究センター)、林 武司(秋田大学教育文化学部)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、濱 侃(千葉大学大学院園芸学研究院)、座長:林 武司(秋田大学教育文化学部)

11:30 〜 11:45

[AHW18-10] 鉱物表面を覆う水膜を介した溶解と物質移動:不飽和帯における化学風化への役割

★招待講演

*西山 直毅1横山 正2 (1.産業技術総合研究所地質調査総合センター、2.広島大学大学院先進理工系科学研究科)

キーワード:化学風化、不飽和帯、水膜、反応-輸送モデル、電気二重層

ケイ酸塩鉱物や炭酸塩鉱物の化学風化は、湖沼や河川の水質を決める重要な要素である。雨水が地下水面に到達するまでの領域は、間隙に水と空気が存在する不飽和状態となり、地表付近における岩石の風化はしばしば不飽和状態下で起こる。水飽和状態の土壌や岩石の風化を調べた研究は多いが、不飽和状態でどのように風化が進むかはあまりよく分かっていない。空気が存在する間隙の表面には、サブミクロンからナノメートルオーダーの厚さの水膜が存在することが知られている。このような薄い水膜で覆われた鉱物表面で溶解や物質輸送が起こるかは,風化の速度や拡がりを考える上で重要である。本研究は、岩石間隙中の水膜の厚さを支配する物理化学と、水膜を介した溶解と物質移動を評価した。
水膜を介した溶解挙動を調べるために、飽和状態と不飽和状態において岩石コアを用いた透水溶解実験を行った。試料は、鉱物組成の異なる2種類の砂岩コア(砂岩Aと砂岩B)を用いた。砂岩Aはほぼ100%石英で構成されるが、砂岩Bは石英に加えて炭酸塩鉱物を含む。実験では、コアを通過した溶液の流量と溶存元素濃度を測定し、飽和と不飽和状態の溶解速度を評価した。実験の結果、Si溶解速度は飽和と不飽和状態で同じであった。一方で、不飽和状態における砂岩BのCa溶解速度は、飽和状態よりも遅くなった。よって、不飽和状態において水膜で覆われた石英は飽和状態と同じように溶解する一方、炭酸塩鉱物は水膜で覆われた状態では溶解速度が減少することが分かった。
では、不飽和岩石中の水膜はどの程度の厚さなのだろうか?我々は、水膜に働く分子間力と電気二重層力を考慮することで、水膜厚さを予測する理論モデルを構築した。その結果、水膜厚さはpH、イオン強度、鉱物表面電荷、間隙サイズによって変化することが分かった。特に、鉱物表面の電荷の符号が重要で、pH中性の環境では、負の場合は水膜が厚くなりやすい一方(例:石英)、正の場合は電気二重層力に起因する反発力が働かないため、水膜が薄くなる(例:方解石)。
次に、水膜を介した溶解や物質移動を定量的に理解するために、水膜中の反応-輸送モデルを構築した。モデルを石英に適用した結果、溶解が遅いため、溶解したSiは水膜内で拡散によって十分に洗い流され、溶解が飽和状態と同じように進行することが示された。一方で、炭酸塩鉱物は速い溶解速度と薄い水膜で覆われる特徴をもつので、水膜中のCa拡散フラックスよりも溶解によるCa流入フラックスの方が大きくなり、水膜内のイオン活動度積が平衡に近づき溶解が著しく遅くなる。これは、透水溶解実験の結果と調和的である。したがって、地表の化学風化を定量的に扱う上で、水膜を介した溶解-輸送モデリングが有用であると考えられる。