15:30 〜 15:45
[AHW21-01] 鉛直準二次元地表・地中流モデルの開発と流域スケールの降雨流出計算への適用
★招待講演


キーワード:降雨流出モデル、準二次元モデル、リチャーズ式、動水勾配
近年,豪雨災害の激甚化・頻発化に伴い,流出予測の重要性がますます高まっている.しかし,既存の実用的な降雨流出モデルは大胆な仮定や簡略化を含み,適用する流域や洪水の規模によっては再現性が低下するため,モデルパラメータの最適化を必要とする場合が多い.一方,リチャーズ式に基づく精緻な物理モデルは,観測可能な土壌物性値などからパラメータを直接決定できるという利点があるが,計算量が膨大となるため河川流域規模の流出予測への活用は困難である.
こうした背景から,本研究では,物理的根拠に基づく流出過程のモデリングと河川流域規模の流出予測に適用可能な計算量とを両立する降雨流出モデルを目指して,鉛直準二次元地表・地中流モデル(以下,準二次元モデル)を開発した.準二次元モデルでは,図1のように斜面に格子状の計算セルを設定し,上流から順に1カラムずつ計算をおこなう.地中流は鉛直二次元のリチャーズ式で表現し,各カラムの計算で斜面傾斜方向への流出量を決める際,動水勾配を斜面勾配で近似することでモデリングの簡略化を図る.地表流はキネマティックウェーブ式で表現する.地中流と地表流は個別に計算されるため,それぞれの流れの速さに合わせた時間差分間隔の設定が可能である.地中流の計算には反復計算を要するが,流れが遅い分,時間ステップを大きくとることで計算量が抑えられる.また,地表面における境界条件は,地表流の有無に応じて切り替わる.地表流がないときには降雨強度で与えられるフラックス境界条件,地表流があるときには地表流水深で与えられる圧力境界条件がそれぞれ適用される.
モデルの検証として,準二次元モデルを単一斜面に適用し,計算精度と計算量の観点から鉛直二次元のリチャーズ式を簡略化せずに解くモデルとの比較をおこなった.斜面下端の流出高,および斜面全体の土壌水分分布について,準二次元モデルは二次元モデルの結果をよく再現することができた.ただし,緩斜面においては,準二次元モデルでは斜面の各位置の計算で下流側の水分状態を考慮しない点が計算精度に影響しやすいことが確認された.また,同条件の降雨流出計算に要した時間は,準二次元モデルが二次元モデルの1/10程度であった.以上の結果から,本研究で開発した準二次元モデルが,飽和不飽和流計算の精度を保ちつつ計算量を大幅に削減できることが示された.
準二次元モデルを流域に展開するにあたり,斜面接続部のモデリング,および計算セルの大きさに関して検討をおこなった.斜面の接続部では,斜面最上流部の状態量に基づいて土層への流入量の上限を決める.そして,上流域からの流出量が流入量の上限を超えるとき,下流斜面全体が飽和している場合には余剰分を地表流として流入させるが,不飽和の場合には余剰流入と同量の水を降雨強度に加算することで斜面全体に供給する.このような処理により,各斜面の計算において上流域からの流出量やその変化に影響されず安定して計算が可能となった.また,各斜面内の計算セルの大きさについて,単一斜面での分析の結果,急勾配斜面では計算セルを傾斜方向に大きくしても計算精度が低下しにくいことがわかった.これを踏まえ,斜面の勾配に応じて計算精度が保てる範囲で可能な限り計算セルを大きくすることで,計算量の削減を図った.
準二次元モデルを用いた流域モデルを,京都・鴨川の上流域,賀茂川と高野川の合流地点から上流に適用した.流域面積は2河川の合計で138.1km2である.計算結果の検証には,合流地点から約750m下流の地点の観測データを利用した.また,モデルパラメータの調整はおこなわず,他流域ではあるが実際に観測された土壌物性値を利用した.
図2は,2020年7月の出水についての準二次元モデルによる計算結果と観測値の比較である.ピーク流量を過大評価する傾向にあるものの,ハイドログラフの立ち上がる時刻やピークの時刻など実際の洪水波形を概ね再現することができた.図2の11日分の流出計算には1日程度の時間を要した.対象流域では賀茂川と高野川の計算を並行して実施することで,実時間の約1/10の時間で計算が可能である.
こうした背景から,本研究では,物理的根拠に基づく流出過程のモデリングと河川流域規模の流出予測に適用可能な計算量とを両立する降雨流出モデルを目指して,鉛直準二次元地表・地中流モデル(以下,準二次元モデル)を開発した.準二次元モデルでは,図1のように斜面に格子状の計算セルを設定し,上流から順に1カラムずつ計算をおこなう.地中流は鉛直二次元のリチャーズ式で表現し,各カラムの計算で斜面傾斜方向への流出量を決める際,動水勾配を斜面勾配で近似することでモデリングの簡略化を図る.地表流はキネマティックウェーブ式で表現する.地中流と地表流は個別に計算されるため,それぞれの流れの速さに合わせた時間差分間隔の設定が可能である.地中流の計算には反復計算を要するが,流れが遅い分,時間ステップを大きくとることで計算量が抑えられる.また,地表面における境界条件は,地表流の有無に応じて切り替わる.地表流がないときには降雨強度で与えられるフラックス境界条件,地表流があるときには地表流水深で与えられる圧力境界条件がそれぞれ適用される.
モデルの検証として,準二次元モデルを単一斜面に適用し,計算精度と計算量の観点から鉛直二次元のリチャーズ式を簡略化せずに解くモデルとの比較をおこなった.斜面下端の流出高,および斜面全体の土壌水分分布について,準二次元モデルは二次元モデルの結果をよく再現することができた.ただし,緩斜面においては,準二次元モデルでは斜面の各位置の計算で下流側の水分状態を考慮しない点が計算精度に影響しやすいことが確認された.また,同条件の降雨流出計算に要した時間は,準二次元モデルが二次元モデルの1/10程度であった.以上の結果から,本研究で開発した準二次元モデルが,飽和不飽和流計算の精度を保ちつつ計算量を大幅に削減できることが示された.
準二次元モデルを流域に展開するにあたり,斜面接続部のモデリング,および計算セルの大きさに関して検討をおこなった.斜面の接続部では,斜面最上流部の状態量に基づいて土層への流入量の上限を決める.そして,上流域からの流出量が流入量の上限を超えるとき,下流斜面全体が飽和している場合には余剰分を地表流として流入させるが,不飽和の場合には余剰流入と同量の水を降雨強度に加算することで斜面全体に供給する.このような処理により,各斜面の計算において上流域からの流出量やその変化に影響されず安定して計算が可能となった.また,各斜面内の計算セルの大きさについて,単一斜面での分析の結果,急勾配斜面では計算セルを傾斜方向に大きくしても計算精度が低下しにくいことがわかった.これを踏まえ,斜面の勾配に応じて計算精度が保てる範囲で可能な限り計算セルを大きくすることで,計算量の削減を図った.
準二次元モデルを用いた流域モデルを,京都・鴨川の上流域,賀茂川と高野川の合流地点から上流に適用した.流域面積は2河川の合計で138.1km2である.計算結果の検証には,合流地点から約750m下流の地点の観測データを利用した.また,モデルパラメータの調整はおこなわず,他流域ではあるが実際に観測された土壌物性値を利用した.
図2は,2020年7月の出水についての準二次元モデルによる計算結果と観測値の比較である.ピーク流量を過大評価する傾向にあるものの,ハイドログラフの立ち上がる時刻やピークの時刻など実際の洪水波形を概ね再現することができた.図2の11日分の流出計算には1日程度の時間を要した.対象流域では賀茂川と高野川の計算を並行して実施することで,実時間の約1/10の時間で計算が可能である.
