日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS13] Marine ecosystems and biogeochemical cycles: theory, observation and modeling

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:伊藤 進一(東京大学大気海洋研究所)、平田 貴文(北海道大学 北極域研究センター)、Hofmann E Hofmann(Old Dominion University)、Bolin Jessica(University of the Sunshine Coast)


17:15 〜 18:45

[AOS13-P06] 2020年6-8月の西之島噴火活動と小笠原諸島周辺における高衛星クロロフィルa海域の関係

*堅田 凜平1、有吉 志満2、鮎澤 颯3齋藤 幸碩4岩渕 弘信4石坂 丞二5 (1.明治大学大学院 農学研究科、2. 早稲田大学大学院基幹理工学研究科機械科学・航空宇宙専攻、3.名古屋大学大学院工学研究科機械システム工学専攻、4.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻、5.名古屋大学宇宙地球環境研究所)

キーワード:クロロフィルa濃度、時系列分析、火山灰

 火山噴火や山火事で放出された大量の灰が海に降ることで、海洋の植物プランクトンが短期間で繁殖することが知られている[e.g., Tang et al., 2021]。東京の南方約930 kmに位置する西之島では、活発な噴火活動が2013年から断続的に発生している。また、西之島周辺海域において海水の変色が噴火と同時期に生じていることが報告されている[e.g., Ono et al., 2018]。海水の変色の要因の一つに、火山灰による植物プランクトンの増殖が考えられる。火山活動が活発であった2020年6-8月にかけて、植物プランクトンの濃度の指標である衛星クロロフィルa濃度(Chlorophyll-a; Chl-a)の増加と火山灰の噴出方向や成分との関連性が指摘されている[Kelly et al., 2023]。更に我々は、衛星画像解析により、西之島から東北東約130 kmに位置する小笠原諸島北部の聟島の周辺海域で、2020年6-8月にかけてChl-aが増加したことを確認した。我々は、西之島の噴火活動による火山灰が着水し、海流に流されると同時に植物プランクトンが増殖し、聟島周辺海域に増加したと推測する。そこで本研究では、聟島周辺海域のChl-aのSeasonal-Trend decomposition using Loess (STL分解)と、Chl-a増加地点の流線追跡シミュレーションを行い、聟島周辺海域でのChl-a増加の原因を調査する。

 聟島周辺海域におけるChl-aの増加が季節由来ではないことを明らかにするために、地球観測衛星TerraとAquaに搭載されたMODISの観測で得られたChl-aデータのSTL分解を行った。今回、2002年から2023年までの聟島周辺海域である北緯27.5°-27.7°東経142.0°-142.2°の領域のChl-aのデータを用いた。その結果、噴火活動が報告された2020年6-7月に大きな残差が検出された。噴火活動による栄養塩等の供給が短期的な現象であると考えると、噴火の影響はSTL分解において残差として表れると期待される。したがって、2020年の6-7月のChl-aの増加が季節性ではないことと、噴火活動に起因する可能性がある短期的な現象であることが示された。

 聟島周辺海域においてChl-aが増加した原因の調査のために、データ同化シミュレーションデータHybrid Coordinate Ocean Model GOFS 3.1の海流データを用い、Chl-aが増加した代表地点の流線追跡シミュレーションを行った。気象衛星Himawari-8の観測データでChl-aの増加が確認された2020年7月6日の聟島周辺海域の北緯27.4°-28.1°東経141.8°-142.5°の領域について、0.05°ごとに配置した代表点各点に対して計算を行った。また、Himawari-8の輝度温度データを用いたAsh RGB画像を用いることで火山灰が広がる領域を検出した。その結果、代表点の多くが6月28日18時に火山灰が広がった西之島の北東72~143 kmの領域を通過したことと、代表点が西之島周辺海域から流れてきたものではないことが示された。これは、聟島周辺海域でのChl-a増加は、西之島の火山噴火に伴う火山灰が遠方で着水して増殖したChlaが海流によって聟島周辺海域に到達した結果であることを示唆するものである。

 本発表では以上の結果の詳細を報告するとともに、2020年6-8月の聟島周辺海域におけるChl-aの増加の原因について議論する。