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[AOS14-06] 日本近海海洋長期再解析(FORA-JPN60)の概要と初期検証結果
キーワード:海洋再解析、日本近海、沿岸モデル、海洋データ同化システム
日本近海には黒潮、親潮、対馬暖流などの主要な海流が流れており、その変動を現実的かつ長期的に再現することは、海洋変動や気候変動のメカニズム解明のみならず、中緯度の大気海洋間のプロセスや水産分野への活用など、幅広い分野において重要である。特に、日本沿岸域においては突発的な強い流れ(急潮)が生じるほか、黒潮続流域等においては卓越する中規模変動や長周期変動を持つ渦活動など、高分解能かつ長期間のデータセットの果たす役割は大きい。
文部科学省気候変動予測先端研究プログラムでは、日本域気候変動の予測システムの開発とメカニズム解明に取り組んでいる。現在気候の再現性は将来予測システムの妥当性を担保する上で重要であり、それには参照できるデータが必要である。そこで、本発表では、現在気候の参照データに資する過去60年程度の日本近海を水平解像度2kmでカバーした高解像度海洋長期再解析データ(FORA-JPN60)について、データセットの概要と初期検証結果について述べる。
FORA-JPN60は、FORA-WNP30(Usui et al., 2017)の後継の位置付けとして、現在、気象庁で運用されている日本沿岸海況監視予測システム(Hirose et al., 2019)を用いた再解析である。ベースとなる海洋モデルは、気象研究所共用海洋モデルMRI.COM v5.0 であり、水平解像度2km の日本近海モデル(JPN)、北太平洋10km モデル、および全球100km モデルから構成され、モデルはオンライン2 段階双方向ネスティングにより結合されている(Sakamoto et al., 2019)。海洋モデルの駆動外力として、JRA-3Q(Kosaka, et al., 2024)を使用する。また、沿岸過程の再現性向上のため、潮汐、気圧応答等の物理過程を組み込むとともに、JRA55 および気象庁で作成している流域雨量指数による河川流量データ(浦川ほか,2016)を考慮する。データ同化は、気象研究所海洋データ同化システム(MOVE)を用いて、北太平洋解析モデルに4 次元変分法(Usui et al., 2015)、全球解析モデルに3 次元変分法を適用する。データ同化により解析された水温・塩分場を用いて、Incremental Analysis Updates(IAU; Bloom et al. 1996)の方法により、日本近海、北太平洋、全球の各モデルを修正する(IAU ダウンスケール;Hirose et al., 2019)。海面水温には、MGDSST(栗原ほか, 2006)を使用する。海面高度は、衛星軌道沿いの海面高度偏差データを観測に含まれる非ステリック成分を補正した後に同化に用いる。現場水温・塩分データは、EN4(Good et al., 2013)をベースとして、国内外の様々なデータセットか収集し、データ数の充実を図った。新たに追加したデータとして、FRESCOデータ(水産庁)、KODCデータ(韓国)、オホーツク海の海氷期観測(海上保安庁)、瀬戸内海総合水質調査(国土交通省)や広域総合水質測定データ(環境省)などが挙げられる。また、海洋同化とは独立して、ナッジングにより海氷密接度の同化も行い、マイクロ波放射計(SSMI,SSMIS)による観測に加えて、気象庁で作成している半旬毎のオホーツク海の海氷解析データを使用する。再解析実験は、1960 年から2020 年までの期間で実施予定(現在、2007年まで完了)である。以上、FORA-JPN60のFORA-WNP30からの主要な改良をまとめると、水平格子の高解像度化(10kmから2km)、データ期間の延長(約30年から約60年)、海洋モデルの高度化(潮汐、気圧応答、河川流量など)、海洋データ同化の改良(非ステリック成分を考慮した海面高度同化)、現場観測データの充実などになる。
FORA-JPN60の初期的な検証結果について述べる。日本南岸を流れる黒潮の流路には、典型的な3つのパターンが存在し、沿岸付近を流れる直進流路、紀伊半島から大きく南に離れる蛇行流路(黒潮大蛇行)、それらの中間的な流路が挙げられる。黒潮大蛇行は、1960年代初頭や1970年代後半など過去に何度も発生しており、最近では2017年以降に発生した大蛇行が2024年現在も継続している。FORA-JPN60の黒潮の流軸位置や、紀伊半島南部の串本と浦神の水位差などは、大蛇行期も含め良好な再現を示していた。(黒潮の再現性の詳細は、A-CG44 黒潮大蛇行の碓氷らの発表を参照。)日本海の表層循環は海峡通過流量によって駆動されており、その流量は海峡を挟む水位差に比例する。観測された沿岸水位を用いて対馬海峡(Shin et al., 2022)や宗谷海峡(Ohshima & Kuga, 2023)で流量が推定されており、検証データとして用いた。1982年-2007年の期間で評価した結果、対馬海峡(宗谷海峡)ではFORA-WNP30の-0.21Sv(-0.24Sv)からFORA-JPN60の-0.11Sv(-0.17Sv)とバイアスが減少していた。FORA-JPN60の沿岸水位は、FORA-WNP30に比べて、相関係数の増加やRMSEの減少などの傾向が見られ、多くの潮位データ地点で再現性が向上していた。日本海の海峡通過流量の収支には、細かい海底地形の再現が重要(Han et al., 2018)であり、水平格子の高解像度化の寄与が一因と考えられる。発表までには全期間(1960-2020)の実験が完了する見込みであり、期間全体を通した検証についても発表する予定である。
謝辞:本研究は、文部科学省気候変動予測先端研究プログラム JPMXD0722680734 の助成を受けたものです。
文部科学省気候変動予測先端研究プログラムでは、日本域気候変動の予測システムの開発とメカニズム解明に取り組んでいる。現在気候の再現性は将来予測システムの妥当性を担保する上で重要であり、それには参照できるデータが必要である。そこで、本発表では、現在気候の参照データに資する過去60年程度の日本近海を水平解像度2kmでカバーした高解像度海洋長期再解析データ(FORA-JPN60)について、データセットの概要と初期検証結果について述べる。
FORA-JPN60は、FORA-WNP30(Usui et al., 2017)の後継の位置付けとして、現在、気象庁で運用されている日本沿岸海況監視予測システム(Hirose et al., 2019)を用いた再解析である。ベースとなる海洋モデルは、気象研究所共用海洋モデルMRI.COM v5.0 であり、水平解像度2km の日本近海モデル(JPN)、北太平洋10km モデル、および全球100km モデルから構成され、モデルはオンライン2 段階双方向ネスティングにより結合されている(Sakamoto et al., 2019)。海洋モデルの駆動外力として、JRA-3Q(Kosaka, et al., 2024)を使用する。また、沿岸過程の再現性向上のため、潮汐、気圧応答等の物理過程を組み込むとともに、JRA55 および気象庁で作成している流域雨量指数による河川流量データ(浦川ほか,2016)を考慮する。データ同化は、気象研究所海洋データ同化システム(MOVE)を用いて、北太平洋解析モデルに4 次元変分法(Usui et al., 2015)、全球解析モデルに3 次元変分法を適用する。データ同化により解析された水温・塩分場を用いて、Incremental Analysis Updates(IAU; Bloom et al. 1996)の方法により、日本近海、北太平洋、全球の各モデルを修正する(IAU ダウンスケール;Hirose et al., 2019)。海面水温には、MGDSST(栗原ほか, 2006)を使用する。海面高度は、衛星軌道沿いの海面高度偏差データを観測に含まれる非ステリック成分を補正した後に同化に用いる。現場水温・塩分データは、EN4(Good et al., 2013)をベースとして、国内外の様々なデータセットか収集し、データ数の充実を図った。新たに追加したデータとして、FRESCOデータ(水産庁)、KODCデータ(韓国)、オホーツク海の海氷期観測(海上保安庁)、瀬戸内海総合水質調査(国土交通省)や広域総合水質測定データ(環境省)などが挙げられる。また、海洋同化とは独立して、ナッジングにより海氷密接度の同化も行い、マイクロ波放射計(SSMI,SSMIS)による観測に加えて、気象庁で作成している半旬毎のオホーツク海の海氷解析データを使用する。再解析実験は、1960 年から2020 年までの期間で実施予定(現在、2007年まで完了)である。以上、FORA-JPN60のFORA-WNP30からの主要な改良をまとめると、水平格子の高解像度化(10kmから2km)、データ期間の延長(約30年から約60年)、海洋モデルの高度化(潮汐、気圧応答、河川流量など)、海洋データ同化の改良(非ステリック成分を考慮した海面高度同化)、現場観測データの充実などになる。
FORA-JPN60の初期的な検証結果について述べる。日本南岸を流れる黒潮の流路には、典型的な3つのパターンが存在し、沿岸付近を流れる直進流路、紀伊半島から大きく南に離れる蛇行流路(黒潮大蛇行)、それらの中間的な流路が挙げられる。黒潮大蛇行は、1960年代初頭や1970年代後半など過去に何度も発生しており、最近では2017年以降に発生した大蛇行が2024年現在も継続している。FORA-JPN60の黒潮の流軸位置や、紀伊半島南部の串本と浦神の水位差などは、大蛇行期も含め良好な再現を示していた。(黒潮の再現性の詳細は、A-CG44 黒潮大蛇行の碓氷らの発表を参照。)日本海の表層循環は海峡通過流量によって駆動されており、その流量は海峡を挟む水位差に比例する。観測された沿岸水位を用いて対馬海峡(Shin et al., 2022)や宗谷海峡(Ohshima & Kuga, 2023)で流量が推定されており、検証データとして用いた。1982年-2007年の期間で評価した結果、対馬海峡(宗谷海峡)ではFORA-WNP30の-0.21Sv(-0.24Sv)からFORA-JPN60の-0.11Sv(-0.17Sv)とバイアスが減少していた。FORA-JPN60の沿岸水位は、FORA-WNP30に比べて、相関係数の増加やRMSEの減少などの傾向が見られ、多くの潮位データ地点で再現性が向上していた。日本海の海峡通過流量の収支には、細かい海底地形の再現が重要(Han et al., 2018)であり、水平格子の高解像度化の寄与が一因と考えられる。発表までには全期間(1960-2020)の実験が完了する見込みであり、期間全体を通した検証についても発表する予定である。
謝辞:本研究は、文部科学省気候変動予測先端研究プログラム JPMXD0722680734 の助成を受けたものです。