日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS16] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2024年5月27日(月) 13:45 〜 15:00 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:増永 英治(Ibaraki University)、日髙 弥子(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、高橋 杏(東京大学 大気海洋研究所)、中島 壽視(東京大学大気海洋研究所)、座長:日髙 弥子(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、中島 壽視(東京大学大気海洋研究所)

14:30 〜 14:45

[AOS16-04] 瀬戸内海播磨灘における植物プランクトンのサイズ組成の変遷について

*岩佐 真杜1濵﨑 裕矢4中國 正寿2山口 一岩2、多田 邦尚2,3一見 和彦2,3 (1.香川大学農学研究科、2.香川大学農学部、3.香川大学瀬戸内圏研究センター、4.愛媛大学大学院連合農学研究科)

キーワード:瀬戸内海、播磨灘、ピコ植物プランクトン、サイズ分画、小型化

瀬戸内海では1980年代後半以降、漁獲量が減少しているが、その主要因は未だ不明である。ほぼ同時期からDIN濃度の低下が認められており(Nishikawa et al. 2010)、これにより、一次生産者の植物プランクトンが減少し、それに続く動物プランクトン、魚類の減少まで伝播している可能性が考えられる。しかし、1992年以降の香川大学が実施している播磨灘の定期観測デ–タではChl a現存量の顕著な減少傾向は確認されていない。一方、2019年以降に行った観測から全Chl a濃度に占めるピコ植物プランクトン(0.2–2 µm)およびナノ植物プランクトン(2–20 µm)の寄与率が1990年代、2000年代と比較して高くなっていることが分かってきた。そこで本研究では、播磨灘において同様のサイズ組成調査を行うと共に、植物プランクトンのサイズ組成と栄養塩濃度の関連を栄養塩添加による増殖試験から明らかにすることを目的とした。
播磨灘(Stn. NH)において、2022年1月–2023年12月まで月一回の観測を行い、水深0、5、10 mで採水した。試料水のDIN濃度を測定すると共に、孔径の異なるフィルタ–(0.2、2、20 µm)で濾過し、サイズ別にChl a濃度を測定した。また2022年9–12月の観測で得た10 m層の海水に0.2、2、20 µmol/LのNaNO₃、Si(OH)₄と0.02、0.2、2 µmol/LのK₂HPO₄を添加した試験区を作成し、現場水温、100 µmol/m²/s(14:10 L:D)で培養した。培養開始から一定時間経過後にサイズ別にChl a濃度を測定した。2023年7–11月の観測では10 m層で得た海水を<0.2 µm、2–20 µm、>20 µmにサイズ分画した後、そのろ液に0、1、2.5、10、25 µmol/LのNaNO₃を添加した。K₂HPO₄とSi(OH)₄は一定量(それぞれ2.5 µmol/L、25 µmol/L)を添加し、5段階の試験区を作成した。これらを現場水温、7月は150 µmol/m²/s (14:10 L:D)、9–11月は150 µmol/m²/s (12:12 L:D)で培養した。培養開始から毎日蛍光値を測定し、サイズ別に植物プランクトンの増殖曲線を作成した。
Stn. NHにおけるDIN濃度は、3–9月で低濃度(1 µM以下)で推移していたが、10月以降は増加傾向に転じた(0.82–6.21 µM)。全Chl a濃度は3–6月に低く、ピコ植物プランクトンの割合が高かったが、DIN濃度の上昇が確認された10月以降ではマイクロ植物プランクトン(>20 µm)の割合が増加した。本研究の結果と1990年代、2000年代を比較すると、DIN濃度は半減しており、マイクロ植物プランクトンの割合が減少していた。培養実験の結果として、栄養塩濃度が異なっても植物プランクトン群集のサイズ組成に大きな差異は見られなかった。一方、増殖曲線を作成すると、各サイズ区の増殖速度に差異は見られなかったが、栄養塩濃度が高くなるほどマイクロ・ナノ植物プランクトンとピコ植物プランクトンが示す最大蛍光値の差が大きくなる傾向が確認された。