[A-OS16] 沿岸域の海洋循環と物質循環

[AOS16-06] 黒潮と沿岸地形に影響を受ける物質輸送過程の粒子追跡実験

*佐近 淳平¹、増永 英治¹、内山 雄介² (1.茨城大学、2.神戸大学)

キーワード：海洋モデル、Lagrange粒子追跡モデル、黒潮、拡散

東日本南岸海域は黒潮や潮汐が複合的に物理的プロセスに大きな影響を与えている. 東日本南岸海域における複雑な物理現象を包括的に観測することは技術的に難しく，詳細な物質輸送・拡散に関する知見は乏しいものとなっている. そこで本研究は，東日本南岸海域における物質輸送過程を解明することを目的とし，領域海洋循環モデル ROMS と Lagrange粒子追跡モデルを統合した数値実験を実施した．粒子追跡結果を用いて東日本南岸海域の地域特性や季節，黒潮による物質輸送および拡散の評価を行った．粒子は領域海洋循環モデル ROMS-L2で構成された674×802の全ての水平格子上に均等に配置し，約3.79×10⁵ 個の粒子を夏季および冬季の2期間に放出した．粒子追跡結果から2粒子ペア間の距離変化量を算出した．粒子間距離は流動解析における大規模な渦が生じる海域に沿うように値が高くなっていることが確認され，渦によって生じるフロントが粒子の拡散に強く関わっていることがわかった．また，沿岸域の粒子は同流域に滞留していたが，粒子間距離が非常に高い値を示していた．
　さらに，地域的な物質輸送過程を評価するためにROMS-L2のモデル領域を６つの領域に分類し，（沿岸上流域・下流域，黒潮上流域・下流域，沖合上流域・下流域），同様の期間，初期粒子配置方法で約2.34×10⁵ 個の粒子を放出した．分散分析を応用して粒子ペアの拡散方向の長軸と短軸を算出し，各領域の2成分方向の相対分散係数を比較した．沖合域では夏季に比べ冬季に拡散係数が10倍程度大きい値を示した．また，拡散軸の2成分は沖合域で同様な値を示し，等方的に物質が拡散することが明らかになった．一方で，黒潮・沿岸域では長軸方向（おおよそ東西）へ拡散が強く，黒潮による引き伸ばし効果が影響し，拡散の方向依存性が高くなると考えられる．