日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS16] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:増永 英治(Ibaraki University)、日髙 弥子(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、高橋 杏(東京大学 大気海洋研究所)、中島 壽視(東京大学大気海洋研究所)

17:15 〜 18:45

[AOS16-P14] 夏季の房総沖陸棚上の黒潮フロントにおける水平微細構造と鉛直混合

*高橋 杏1伊藤 幸彦1増永 英治2堤 英輔3柳本 大吾1柴野 良太1中島 壽視1、増田 貴子4 (1.東京大学 大気海洋研究所、2.茨城大学、3.鹿児島大学 水産学部、4.水産研究・教育機構 水産資源研究所)

キーワード:陸棚、乱流混合、水平拡散、クロロフィル極大

沿岸域の生産を支える栄養塩の循環は、河川・海底堆積層・外洋からの流入過程、生物による消費・再生過程、そして流動場の移流・拡散による輸送過程によって駆動される。利根川河口に近く、沖合に黒潮が流れる銚子/房総沖の陸棚域では、沿岸と沖合の海水交換・混合が活発に生じていると考えられ、これらの複合的な栄養塩循環過程を調べるのに適している。しかし、栄養塩供給と移流・拡散過程に関する包括的な調査は本海域では行われておらず、栄養塩循環像は未解明である。そこで本研究では、2023年9月に房総沖陸棚で実施された CTD, ADCP, VMP, Underway CTD (UCTD) 集中観測を実施した。これらの観測から得られたデータをもとに、当海域の流動場と水塊分布の特徴を明らかにするとともに、移流・拡散過程が生物生産に与えるインパクトについて議論する。

陸棚斜面に沿って実施された UCTD と Shipboard ADCP による水平高解像度観測では (i) 沿岸側表層20 m には夏季の降水の影響と思われる低塩分水が少なくとも 30 km にわたって広がる様子、(ii) 房総沖に接近した流路をとっていた黒潮が陸棚斜面中心部まで乗り上げる様子、(iii) 塩分・濁度・クロロフィル蛍光には沿岸/黒潮フロントに沿って貫入する構造が捉えられた。VMP 観測では表層 20 m および陸棚外縁の海底付近で ε〜10-6 W/kg, 沿岸/黒潮フロント上の躍層では ε〜10-7 W/kg もの強い乱流運動エネルギー散逸率が捉えられた。

クロロフィル蛍光は躍層下部に極大 (subsurface chlorophyll maximum; SCM) を持ち、沿岸/黒潮フロントで特に高くなっていた。SCM の深度は有光層深度とほぼ一致しており、また SCM の上端・下端の位置は CTD に搭載した SUNA で得られた硝酸塩の水平勾配・鉛直勾配の極大の位置と一致していた。これらの結果は、植物プランクトンにとって表層の栄養塩は枯渇しており、有光層以深の豊富な栄養塩が移流や拡散によって供給されることで SCM が維持されていたことを示唆する。

本観測データから鉛直拡散・水平拡散による硝酸塩供給の定量化を試みた。VMP で得られた乱流鉛直拡散係数 Kv から推定される硝酸塩供給は SCM 下端で d(NO3)/dt 〜1 (μmol/l)/day と極大であった。UCTD プロファイルに混合距離理論 (e.g., Naveira Garabato et al. 2011) を適用したところ、フロント上では水平拡散係数は KH 1 m2/s と小さく、それに伴う硝酸塩供給は d(NO3)/dt < 10-2 (μmol/l)/day と推算された。これらの結果は、夏季の房総沖陸棚における SCM への栄養塩供給として、乱流鉛直混合が主要な役割を果たしているのに対し、サブメソスケールの水平拡散の寄与は小さいことを示唆する。