日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG06] 地球史解読:冥王代から現代まで

2024年5月29日(水) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、中村 謙太郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)


17:15 〜 18:45

[BCG06-P01] グリーンランド西部Isua Supracrustal Beltの超苦鉄質岩中の流体/メルト包有物の希ガス・ハロゲン分析から探る太古代マントルの進化

*福島 菜奈絵1角野 浩史2森下 知晃3、Guotana Juan4、西尾 郁也5谷 健一郎6、Waterton Pedro7、Szilas Kristoffer7沢田 輝8村山 雅史9吉田 健太10 (1.東京大学総合文化研究科、2.東京大学先端科学技術研究センター、3.金沢大学理工研究域地球社会基盤学系、4.University of the Philippines Los Baños、5.金沢大学自然科学研究科、6.国立科学博物館地学研究部、7.University of Copenhagen、8.富山大学都市デザイン学系地球システム科学科、9.高知大学農林海洋科学部海洋資源科学科、10.海洋研究開発機構)

キーワード:グリーンランド、イスア、太古代、希ガス、ハロゲン

グリーンランド西部Isua Supracrustal Beltの超苦鉄質岩中の流体/メルト包有物の希ガス・ハロゲン分析から探るマントルの進化

プレートの沈み込み開始以降,地球では沈み込みに伴う表層-マントル間での物質循環が継続している.表層からマントルに持ち込まれる物質の中でも特に水は含水鉱物を形成し,マントル深部まで沈み込むことで,マグマ生成・大陸地殻形成等に重要な役割を果たす.しかし地球史を通じたマントル内の水等の揮発性成分の組成やその改変過程の理解は不十分である.本研究では,初期のマントルの揮発性成分の進化を制約するために,太古代の超苦鉄質岩について希ガス及びハロゲン分析をおこなった.
グリーンランド西部のIsua Supracrustal Belt (ISB)から採取した岩石を用いた.ISBは全長約30km,幅4kmのアーチ状の地質帯で,南部テレーン(3.8Ga)と北部テレーン(3.7Ga)から構成されている(Nutman and Friend, 2009).北部テレーンには数m~数100m規模の超苦鉄質岩体が産し,”Lens A”,”Lens B”と呼ばれるダナイトの岩体が存在する(Friend and Nutman, 2010) .これらの岩体は蛇紋岩化・脱蛇紋岩化等の複雑な変成履歴をもつ(例えばGuotana et al., 2022).ダナイトの起源は,融け残りカンラン岩(Friend and Nutman, 2011)や,地殻に貫入した玄武岩質マグマから形成された集積岩(Waterton et al., 2022)など様々な解釈がなされている.Lens Aダナイトは粒界が蛇紋石化しているものの,初生オリビンは多く残っている可能性がある.希ガス・ハロゲン分析では,オリビン中の流体/メルト包有物をターゲットとした.
希ガス組成は,地殻中の存在度が高いU, Th, K等の放射壊変に由来する成分の寄与が強い特徴を示した (3He/ 4He = 0.02-0.4 RA, 40Ar/36Ar = (2-10)×104 , RAは大気の値).つまりマントルの希ガス組成は何等かの過程により改変されたことを示す.ここで3つのモデルを考察した.①沈み込み帯でスラブ由来流体が放出され,玄武岩質マグマ(ダナイトのマグマ源)を形成した,②ダナイトはマントル最上部の融け残りカンラン岩か,マントル-地殻境界近傍のマグマだまりで形成された集積岩に,スラブ由来流体/メルトが浸透し捕捉された,③ダナイトが衝上し地殻中に定置した後,変成作用に伴い地殻流体による変質の影響を受けた.オリビン中の流体/メルト包有物の形状は二次的包有物の特徴を示すことから,①の可能性は低いと考えられる.
スラブ由来成分の影響を強く受けた顕生代のマントルカンラン岩の例として,イタリアのFinero金雲母カンラン岩体が挙げられる.このカンラン岩体は,マントルウェッジでスラブ溶融に関連した交代作用を受けた可能性があり(Zanetti et al., 1999),その希ガス同位体比は放射壊変起源成分の寄与を示す(Matsumoto et al., 2005; Fukushima et al., 2024).Fineroカンラン岩のような希ガス組成の特徴は,他の地域のマントル由来カンラン岩からはほとんど報告されていない.Fukushima et al. (2024)は,Fineroカンラン岩の希ガス組成は,スラブ表層物質中の含水鉱物に捕捉された放射壊変起源Heが沈み込み,スラブ部分溶融時に上位のマントルを汚染した結果であるという可能性を示唆した.もし上記のモデルのうち②が正しいと仮定すると,マントルがスラブ部分溶融に由来する流体/メルト中の放射壊変起源成分の寄与を強く受けていた可能性が示唆される.また,Lens Aダナイトのハロゲン組成は,スラブ由来成分の寄与なしに説明することが難しいことから,上記のモデル②を支持するかもしれない.本研究の結果は,太古代の沈み込み帯下のマントルへの揮発性成分のリサイクルは現在よりも活発であり,当時のマントルの揮発性成分を改変する重要な過程であった可能性を提示する.