17:15 〜 18:45
[BCG06-P03] 独立成分分析を用いた初期太古代の海水組成推定

キーワード:海洋組成、初期太古代、独立成分分析、生命進化
地球史において生物進化に大きく寄与してきた海洋の化学組成を推定することは、生物史を考える上で重要である。例えば初期地球の海洋は還元的でメタン生成菌などの嫌気性菌が生息していたが、酸素発生型光合成生物の台頭により酸化的な海に変化したと考えられている。生物起源を考える上で、初期地球の海洋におけるPやNiなど生命必須元素量の経年変化を追うことは必要不可欠であるが、過去の海洋組成推定は定量性を欠いている。
一般に過去の海洋組成は海洋で形成した化学沈殿岩などの化学組成から推定される。しかし、そのような化学沈殿岩には海洋由来の沈殿物だけでなく、陸源砕屑物など様々な物質が混在しており、その化学組成が堆積当時の海水組成を反映しているとは限らない。また、のちの時代に受けた岩石の変質や変成作用に伴う元素移動の影響も考慮する必要がある。例えば、Konhauser et al. (2009)は3.8Ga~2.7Gaの初期太古代のBIF(縞状鉄鉱層)がそれ以降のBIFや酸化鉄堆積物よりも高いNi/Fe比を持つことを示し、初期太古代の海洋は現在に比べてNiに富んでいたことを示唆した。そして、新太古代の海洋Ni濃度の低下がNiを含むメタン生成補酵素F430を必須とするメタン生成菌の衰退と酸素発生型光合成生物の相対的な繁栄を引き起こし、海洋酸素濃度の増加をもたらしたとした。この仮説は、酸素発生型光合成生物が大酸化イベントの前から出現したにもかかわらず、酸素の増加に至らなかったことを説明するよく説明する一方で、その根拠となったデータに関しては多くの問題がある。具体的には、そのNi濃度の見積もりにおける砕屑物の混入の影響を取り除けていない。そこで、Aoki et al.(2018)は砕屑物による影響を除くために、Zr濃度を砕屑物混入の指標として、Zrとの相関から鉄酸化物成分のNi/Fe比を推定したが、実際の試料は陸源砕屑物や火山性砕屑物など複数の成分の混入があり、砕屑物のZr濃度が一様ではないため、その手法は定量性に欠ける。
そこで本研究では、初期太古代(3.9~3.8Ga)の試料データに対して統計解析手法の一つである独立成分分析を適用し、堆積物中の起源物質の分離・供給源の推定を行った。独立成分分析は多次元データの縮約を可能にしているが、主成分分析とは異なり非正規分布からの解離を抽出する。また抽出された各成分は互いに「独立」であり、複数の起源から成る堆積物の分離に有用であると考えられる。解析に用いた試料は、イスアのBIF(36試料)、炭酸塩岩(24試料)、砕屑岩(18試料)とラブラドルBIF(36試料)、炭酸塩岩(8試料)、砕屑岩(59試料)であり、10の主要元素と31(もしくは33)の微量元素の組成データである。
計算の結果、特にFeOT, SiO2, TiO2+Al2O3, MgO+CaOに富む成分が抽出でき、それぞれ鉄酸化物、チャート、砕屑物、炭酸塩鉱物に対応すると考えられる。また、砕屑物成分はいくつかのタイプに分けられ、また炭酸塩岩のSiO2濃集を特徴づける珪化の成分も抽出された。イスアのBIF中の鉄酸化物と考えられる成分にはEu正異常やY/Ho異常があり、Pに富む。また、チャート成分もEu正異常やY/Ho異常が見られた。一方で、同様にSiO2の増加の原因となる珪化はそれとは異なる特徴を持つ。これらの成分は、BIF、炭酸塩岩、砕屑岩全ての試料中に確認できる。さらにBIF中の角閃石に富む部分は軽希土類の欠乏が見られる。Niは主に砕屑物成分と正の相関を示しており、縞状鉄鉱層中の全てのNiが鉄酸化物由来ではないことを支持する。鉄酸化物由来と砕屑物由来のNiの寄与度を計算することより砕屑物の影響を取り除き、より定量的に海水中のNi量を推定することが期待される。
また、主成分元素のみを用いた解析では変成作用や変質を除去した元の鉱物組み合わせが分離でき、希土類元素と遷移元素などの微量元素組成を含む解析では、REEに特徴づけられる、構成する鉱物種によらない堆積プロセス、熱水作用など、を表す成分が抽出できる。この二つの分析手法を組み合わせることによって、変質や変成作用を受けた岩石をより詳細に解析することが可能になることが期待できる。
一般に過去の海洋組成は海洋で形成した化学沈殿岩などの化学組成から推定される。しかし、そのような化学沈殿岩には海洋由来の沈殿物だけでなく、陸源砕屑物など様々な物質が混在しており、その化学組成が堆積当時の海水組成を反映しているとは限らない。また、のちの時代に受けた岩石の変質や変成作用に伴う元素移動の影響も考慮する必要がある。例えば、Konhauser et al. (2009)は3.8Ga~2.7Gaの初期太古代のBIF(縞状鉄鉱層)がそれ以降のBIFや酸化鉄堆積物よりも高いNi/Fe比を持つことを示し、初期太古代の海洋は現在に比べてNiに富んでいたことを示唆した。そして、新太古代の海洋Ni濃度の低下がNiを含むメタン生成補酵素F430を必須とするメタン生成菌の衰退と酸素発生型光合成生物の相対的な繁栄を引き起こし、海洋酸素濃度の増加をもたらしたとした。この仮説は、酸素発生型光合成生物が大酸化イベントの前から出現したにもかかわらず、酸素の増加に至らなかったことを説明するよく説明する一方で、その根拠となったデータに関しては多くの問題がある。具体的には、そのNi濃度の見積もりにおける砕屑物の混入の影響を取り除けていない。そこで、Aoki et al.(2018)は砕屑物による影響を除くために、Zr濃度を砕屑物混入の指標として、Zrとの相関から鉄酸化物成分のNi/Fe比を推定したが、実際の試料は陸源砕屑物や火山性砕屑物など複数の成分の混入があり、砕屑物のZr濃度が一様ではないため、その手法は定量性に欠ける。
そこで本研究では、初期太古代(3.9~3.8Ga)の試料データに対して統計解析手法の一つである独立成分分析を適用し、堆積物中の起源物質の分離・供給源の推定を行った。独立成分分析は多次元データの縮約を可能にしているが、主成分分析とは異なり非正規分布からの解離を抽出する。また抽出された各成分は互いに「独立」であり、複数の起源から成る堆積物の分離に有用であると考えられる。解析に用いた試料は、イスアのBIF(36試料)、炭酸塩岩(24試料)、砕屑岩(18試料)とラブラドルBIF(36試料)、炭酸塩岩(8試料)、砕屑岩(59試料)であり、10の主要元素と31(もしくは33)の微量元素の組成データである。
計算の結果、特にFeOT, SiO2, TiO2+Al2O3, MgO+CaOに富む成分が抽出でき、それぞれ鉄酸化物、チャート、砕屑物、炭酸塩鉱物に対応すると考えられる。また、砕屑物成分はいくつかのタイプに分けられ、また炭酸塩岩のSiO2濃集を特徴づける珪化の成分も抽出された。イスアのBIF中の鉄酸化物と考えられる成分にはEu正異常やY/Ho異常があり、Pに富む。また、チャート成分もEu正異常やY/Ho異常が見られた。一方で、同様にSiO2の増加の原因となる珪化はそれとは異なる特徴を持つ。これらの成分は、BIF、炭酸塩岩、砕屑岩全ての試料中に確認できる。さらにBIF中の角閃石に富む部分は軽希土類の欠乏が見られる。Niは主に砕屑物成分と正の相関を示しており、縞状鉄鉱層中の全てのNiが鉄酸化物由来ではないことを支持する。鉄酸化物由来と砕屑物由来のNiの寄与度を計算することより砕屑物の影響を取り除き、より定量的に海水中のNi量を推定することが期待される。
また、主成分元素のみを用いた解析では変成作用や変質を除去した元の鉱物組み合わせが分離でき、希土類元素と遷移元素などの微量元素組成を含む解析では、REEに特徴づけられる、構成する鉱物種によらない堆積プロセス、熱水作用など、を表す成分が抽出できる。この二つの分析手法を組み合わせることによって、変質や変成作用を受けた岩石をより詳細に解析することが可能になることが期待できる。
