日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG07] 岩石生命相互作用とその応用

2024年5月28日(火) 09:00 〜 10:15 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)、西原 亜理沙(国立研究開発法人理化学研究所 バイオリソース研究センター )、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、白石 史人(広島大学 大学院先進理工系科学研究科 地球惑星システム学プログラム)、座長:福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、西原 亜理沙(国立研究開発法人理化学研究所 バイオリソース研究センター)


09:00 〜 09:15

[BCG07-01] 現世ストロマトライト中のアラゴナイト球晶は,非晶質炭酸カルシウム・カルサイト・細胞外高分子からなる核をもつ

*白石 史人1、秋元 貴幸1富岡 尚敬2甕 聡子2,3高橋 嘉夫4 (1.広島大学、2.海洋研究開発機構、3.山形大学、4.東京大学)

炭酸塩スフェルライト(球晶)は直径数10 μm~1 mm程度の球状粒子であり,微生物起源の炭酸塩岩にしばしば含まれている.特に大西洋沿岸の大規模石油貯留岩中には炭酸塩スフェルライトが多く含まれていることから,その成因が注目されている.先行研究では,炭酸塩スフェルライト断面のSEM観察において直径0.2~0.5 μm程度の球状構造が見られたことから,それらを細菌化石とみなし,微生物起源説を唱えた.しかしながら,それら球状構造を細菌とする根拠は形態のみであり,また典型的な原核生物に比べるとかなり小さいことから,その解釈には疑問が残る.そこで本研究は,温泉に発達するストロマトライト中の炭酸塩スフェルライトを対象とし,その内部を詳細に観察・分析することで,その成因を明らかにすることを目的とした.
検討を行った試料は,大分県長湯温泉に発達する炭酸塩沈殿物(トラバーチン)であり,ここでは温泉水の高いMg2+・SO42濃度などを反映してアラゴナイトが沈殿している.本研究では,厚いシアノバクテリアマットによって表面が覆われた部分を試料として採集した.薄片の偏光・蛍光観察から,この沈殿物が細かな葉理を持つストロマトライトであることが示された.このストロマトライトの表面付近において,多数の糸状シアノバクテリアに囲まれるように成長している直径約20 μmのスフェルライトから,集束イオンビーム(FIB)加工によって厚さ約100 nmの薄膜試料を作成し,走査型透過X線顕微鏡(STXM)および透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてスフェルライトの内部を観察した.その結果,スフェルライトの大部分はアラゴナイトであったが,中心部付近には直径約0.1~0.2 μmの縮れた紐のような形態を示す疎な部分が多数見られた.STXMによるX線吸収端近傍微細構造(NEXAFS)分析から,この部分には非晶質炭酸カルシウム(ACC)とカルボキシ基が存在することが示された.また,それらの一部は直径約2.0~2.5 μmのカルサイトに取り囲まれていた.これらのことから,検討を行った炭酸塩スフェルライトは,負に帯電した微生物の細胞外高分子(EPS)周辺にACCナノ粒子が集積し,一部ではEPSの影響でカルサイトの結晶核となったものの,周辺の水化学組成を反映して多くはアラゴナイトの結晶核となり,それが結晶成長することで形成したことが示唆される.