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[BCG07-P03] 微生物代謝によるリン酸カルシウム形成の酸性鉱山廃水浄化への適用性評価
キーワード:酸性鉱山廃水、浄化、リン酸カルシウム
酸性鉱山廃水 (AMD) は生物に悪影響を及ぼす世界的な環境問題であり、AMDで汚染された地下水の浄化が技術的に困難な地下環境において、費用対効果の高い浄化技術が必要とされている。一般に、地下環境の汚染浄化には、汚染土壌の掘削や井戸を介した地下水の汲み上げ作業により高いコストを要する。そのため、微生物を用いた原位置での浄化は、低コストな代替案として期待されている。リン酸カルシウムは溶液から金属を除去することが知られているため、本研究では微生物によるリン酸カルシウム形成に着目した。秋田県横手市の旧吉乃鉱山から流出するAMDを培地に添加して培養実験を行い、微生物によるリン酸カルシウムの形成によって金属元素が除去されるかどうかを検証した。小石川植物園内の池から採取した堆積物を接種源として同条件の培養実験を6つ行い、ネガティブコントロールとしてオートクレーブ滅菌した接種源による培養実験も行った。14日間の培養期間後、6つの培養系のうちの5つでは、全菌数が~2×106 cells/mL前後から~0.2-3×108 cells/mLまで増え、pHは5.5から8付近まで上昇した。一方で、6つのうちの残りの1つと滅菌したコントロール実験では、全菌数とpHの上昇は見られなかった。溶液中のCa濃度とリン酸濃度の減少は、pHが8まで上昇した5つの培養系についてイオンクロマトグラフィーで確認された。さらに、減衰全反射フーリエ変換赤外分光光度計(ATR-FT-IR)およびエネルギー分散型X線分光計(EDS)を備えた電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いた固相分析により、リン酸カルシウムの形成が確認された。これらの結果から、pHの上昇とリン酸カルシウムの生成は微生物の活動に起因することが明らかになった。金属元素濃度は誘導結合プラズマ質量分析計 (ICP-MS) で分析した。pHが8まで上昇した5つの培養系では、Cu, Zn, Cd, Pbの濃度が数ppmからサブppmレベルまで低下したが、この5つのうちの1つではCuの低下が限定的であった。この例外的な結果から、Cu濃度の低下は容器への吸着では説明できないことが明らかになった。水酸化ナトリウム水溶液を添加して人為的にpHを8まで上昇させた実験では、Zn, Cd, Pbはリン酸カルシウムの形成とともに除去されたが、Cuは溶液から除去されなかった。この結果は、培地中のCuの挙動が他の金属とは異なることを示している。SEM-EDSを用いた分析では、CuはSとともに検出されたため、Cuは金属硫化物として溶液から除去されている可能性が示唆された。本研究では、沈殿した固相の同定や金属除去過程 (容器への吸着(Cuを除く)、微生物細胞やリン酸カルシウムへの収着、あるいは金属リン酸塩の形成) の解明には至らなかったが、微生物活動によってAMDから金属を除去することに成功した。今後の研究では、これらの課題を明らかにし、人為的な浄化が困難な地下環境汚染への適用を目指す。
