日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT03] 地球生命史

2024年5月30日(木) 09:00 〜 10:15 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:本山 功(山形大学理学部)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)、座長:本山 功(山形大学理学部)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)

09:00 〜 09:15

[BPT03-01] 太古代の枕状溶岩からのリンの溶脱における炭酸に富む熱水の重要性:27 億年前のカナダ・アビティビ緑色岩帯における事例研究

*高階 悠貴1石田 章純1掛川 武1 (1.東北大学大学院 理学研究科 地学専攻)

キーワード:太古代、リン、枕状溶岩

リンは生命の起源と進化において必要不可欠な元素であるが、超大陸が存在せず、現代のような陸源供給がほぼ期待出来ない冥王代や太古代といった地質時代において、どのようにリンが水圏に供給されたかは明らかになっていない。近年、海底熱水活動が海底玄武岩からリンを溶脱させ水圏にリンを供給した可能性が提唱されているが、一方で現代の海洋において海底玄武岩はリンを沈着させるという研究例もあり、太古代の海底玄武岩がリンの供給源になったという実証的な地質証拠は不足している。
 本研究はカナダ・アビティビ緑色岩帯における約27 億年前の枕状溶岩とハイアロクラスタイトを事例とし、太古代における海底熱水活動が海底玄武岩から水圏へとリンを供給した可能性について地球化学的に検証を行う事を目的としている。調査地域では様々な産状の枕状溶岩が見つかり、全ての枕状溶岩にはかつての急冷ガラスである辺縁部が観察された。この地域の枕状溶岩の辺縁部は、溶岩の噴出と同時期に起こった海底熱水活動によって変質を被っており、変質の度合いが弱いもの、石英脈に富むもの、硫化物に富むもの、方解石及び硫化鉱物に富むものに分類された。分析段階において、熱水変質を強く被り、方解石や硫化鉱物といった二次鉱物に富むような部分をリム部分、熱水変質をあまり被っておらず、二次鉱物に乏しい部分をコア部分、という定義に基づいて試料を分類した。そして、それぞれの部分の鉱物学的・地球化学的研究を別々に行い、両者の結果を比較した。
 観察の結果、燐灰石と楔石の鉱物脈が、方解石及び硫化鉱物に富む種類のリム部分においてのみ発見された。その一方、コア部分において燐灰石は僅かに微小な結晶のみが確認され、楔石も脈の形での晶出は確認されなかった。リン酸塩鉱物は試料によって粒形や変質の度合いの違いが見られたが、調査した試料では燐灰石が唯一の鉱物相だった。リム部分における方解石を伴う燐灰石と楔石の脈という産状から、リンやチタンの溶解と移動は炭酸に富む熱水によって引き起こされたと考えられる。方解石の炭素同位体組成と硫化鉱物の硫黄同位体組成から、この熱水はカルデラ底部を起源とする火山性の熱水であり、局所的に海水と混合しながらカルデラ壁面に沿った大規模な熱水循環が起こっていた事が示唆される。一方、方解石脈を伴わないリム部分では、母岩である枕状溶岩からのリンの溶脱の痕跡は見られなかった。これらの結果は、炭酸に富む熱水が海底玄武岩からリンを溶脱させ、太古代の海水中にリンを供給する鍵となった事を示している。